「北欧 暮らしの道具店」の青木さんから5時間ぶっ続けで濃い話を聞いた件

こんにちは、坂本です。

ここのところ、アマゾンや大企業によるお店が増えてきたこと、競争が激化したことにより、「これからの中小規模ネットショップはどうなるのか」といったテーマがよく話題になりますよね。特に「仕入れ型の店は生き残れるのか」的な。

私もいろいろ考えてきました。で、ある日、とある方に話を聞いてみようと思い立ちました。次世代型の成功事例としてよく紹介される有名店「北欧暮らしの道具店」代表の青木さんです。お店も凄いですが、個人的には青木さんが非常~にスゴい人だと思っています。濃い。

オフィスに行った後、ご飯をご馳走になり、5時間程ぶっ続けでお話しました。最後にお話ししたのが多分数年前なので、昔話に始まり、ローマ時代における軍人皇帝および哲人皇帝の話や文明の発達、事業をやるにあたりいかに哲学的思考が大切か、戦後の日本の会社がどう変遷してきたかなど、濃厚すぎる話も大量に伺いましたが・・・涙を呑んでそこは割愛し、ネットショップ運営に参考になりそうな話を掻い摘んでご紹介します。

「北欧、暮らしの道具店」って、どんなお店?

「暮らし方」についてのコンテンツを発信しながら、様々な商品を販売しています。月間PVは約1000万、Facebookページの「いいね!」約29万、Instagramフォロワー約12万人。≫参考

もともとは北欧のブランド食器や雑貨類のネットショップでしたが、今では、商品ではなく「ライフスタイルの発信」そのものが店の中心になっており、なんと、コンテンツで集客するのではなく、コンテンツを雑誌として売ったりもしています。

この独特のスタンスが有名で、色々なところで紹介されています。≫参考

北欧に限らず、一貫したテーマでコンテンツ発信

むかしは映画「かもめ食堂」みたいな北欧の話題が多かったですが、いまは北欧に限らない感じになっています。

スタッフや色んな人のお弁当を紹介してみたり、収納などの暮らしのコツを発信したり。スタッフ愛用品の紹介とか。

同店では、「毎日のように見に来るのに、購入は何年かに1回ずつというヘビーユーザー」が、大勢いるそうです。購入率は低いですが、あまり買わないお客さんでも、毎日のように通わせてしまうという引力があるとも言えますね。

ああコンテンツマーケね・・と思うでしょうが、代表の青木さんご本人は、「コンテンツマーケティングの成功店舗」として取りあげられることには、結構違和感があるとのこと。単に「○○するための3つの方法」みたいな記事をバンバン書いているわけではなく・・、通底するテーマ性を感じませんか。当社(コマースデザイン)の女子社員にもファンがいました。彼女のまわりにもファンが多いようです。

商品だけでなく、コンテンツ単体も販売

そして、これが面白い。商品販売のためのコンテンツ発信かと思いきや、コンテンツ単体でも売れています。出版社状態です!
http://hokuohkurashi.com/note/79568
http://hokuohkurashi.com/note/78844

食品も売ります。ジャムやシロップを売っています。しかもオリジナル。著名な料理家の方と共同出資で作ったそうです。
http://hokuohkurashi.com/?mode=cate&cbid=1409816&csid=3
個人的には、食品そのものじゃなく、「暮らしの道具」として食品を売っている印象です。

元々は普通のネットショップ

最初からこういうお店だったわけではありません。元々は普通の店だったそう。青木さんいわく「ネットショップの集まりに行くと、誰がいくら売れたという話をしていて、聞いていると広告を買いたくなってしまうんです」「意志が弱いので集まりには出ないようにしました」とのこと。普通ですねw

もともとは、スウェーデンやフィンランドから仕入れたビンテージのお皿を中心に売っていました。「安く仕入れて高く売る」というモデルで、その時点では、ごく一般的なネットショップだったわけです。しかし、併設したブログがやたらPVが高い。どうやらライフスタイルやストーリーの需要が高いぞ、これはかなり奥深いぞ、と知り、それをお店に取り入れ、発信をつづけた結果、今のようなお店になった模様。

とはいえ、
「売るだけではなくコンテンツも大事」と思っているのは皆同じ。
そんな中、同店はなぜここまで突き抜けることが出来たのか。

そのへんの話を伺いました。

物を売るには「見立てる力」が大切

で、ここから本題。
物を売るには「見立てる力」が大切。

見立て力とは

例えば、裏山に岩が転がっているとします。これを「庭石」に見立てれば商品になります。歌の下手な女の子を「これから成長していくアイドル」に見立ててプロモーションすると、「応援したいファン」を増やすことが出来ます。

岩は岩、下手は下手・・などと固定化した目で見るのではなく、物事を様々な角度から眺め、商品や店の新しい魅力を見つける力を、青木さんは「見立て力」と呼んでいます。弊社の支援先でも見立て力が光っている事例がいくつかあります。そんな話をして、あらゆるビジネスの裏に、見立て力が作用していますよね、と盛り上がりました。

有名な事例はエルメスです。100年前、エルメスは馬具のメーカーでした(今でも馬車モチーフのロゴを使ってますね)。自動車が普及する時代を迎え、エルメスは岐路に立つことになります。馬具を売れなくなる中、このままの事業を続けるか。方針転換するか。

彼らは「自分たちは何屋なのか」と考え、馬具メーカーではなく「卓越した革細工職人の集団」だと定義しました。そして、鞄や財布などの皮製品に軸足を移しました。結果、今の成功があります。これも「見立て」です。

ネットショップがかかっている呪縛

青木さんは、多くのネットショップが「呪縛に掛かっている」といいます。

「ネットショップって、『カートボタンの付いたWEBサイト』ですよね?本来、『WEBサイト』はかなり多機能で、いろんなことができます。でも、それを『ショップ』と見立ててしまうことで、本来できるはずの発想が阻害されているのでは」

曰く、モールやベンダー(=システム提供会社)の営業マンが、小規模事業者に営業する際、WEBサイトやシステム・・というと分かりづらいので、「ネット上にあるお店」ですよと言いながら販売したからではないか、と。心当たりあるなあ。。営業マンはそのほうが売りやすいわけですが、当のネットショップ側もそのまま鵜呑みにして、本来できるはずの様々な打ち手を見落としているのでは、という話。

ちなみに同店は、業界では「楽天を退店して急成長」というエピソードでも有名ですw 当時から存じ上げていますが、退店したことで、かなりこの呪縛から解放されたんじゃないかなーという感はありますねえ。

見立てられ力も大事

そんな同社は、事業としてはECと同時に「メディアの運営」を行っているわけですが、あくまでも「お客さんからは店として見立てて欲しい」と言います。

何故なら、メディアとして見立てられると、他の専業メディア(ECではないメディア)と比べられることになります。そこで比べられると、ちょっと不足が多い。でも、不足が多くても、「読み物が多い店」「見ていて楽しいお店」と見立ててもらえると有利。

アパレルの「BEAMS」も、本当はSPA(製造直販)なんですが、あくまでも見立てはセレクトショップとして売っていますよね。前述のアイドルも、あくまでも歌の下手さではなくて、「成長過程にある」という点こそに、着目して欲しい訳です。

このように、見立てられ方をコントロールするという考え方も大切です。このあたりの感覚をトレーニングすると、「物販オンリーからの脱却」がやりやすくなると思いますね。具体的にどのように見立てる/見立てられるべきか・・についてはケースバイケースですが、まずは「メガネを取り替えて考える」姿勢が大事なのかなと思います。

メディア運営を実現する業務効率

次に、コンテンツの生産体制について。
毎日、大量に良質のコンテンツを増やしている同社は、どのように体制を作っているのかを伺いました。

生産性を2倍にする

で、ポイントは色々あるんですが、おそらく特に大事なのは、この観点。

「コンテンツを沢山作りながらモノを売るのは、事業を2つやるようなもの。だから2倍大変。」

一般的なネットショップの運営に加えて、メディアの運営をするわけです。メディアだけしかやってない会社が沢山あるのに、「ネットショップをしながらメディアをする」なんて気軽にできるわけがないわけです。

少なくとも生産性が2倍ないと、両方の仕事を回せません。つまり、「一般的なネットショップ手法」を徹底して理解し、やりきって、効率化までやってないと、新しいことは出来ないのです。青木さん、この点はかなり力説していました。「これまでのECは古いので、新しいことをしなければならない」的な営業セミナーには強い違和感を持っているそうです。

「昔からある一般的な施策」と、「メディアのような新しい施策」のことを青木さんは、「モダン」と「ポストモダン」と呼んでいます。思想や哲学で使われる用語です。モダン=近代。モダンの次、がポストモダンです。ポストモダンに進む為には、まず、モダンをやり切らないといけないということです。

正にわが意を得たりという思いでした。この話を聞きに行ったと言っても、過言ではありませんw 「何か新しいことをやらないといけないかな」と思いながらこの記事を読んでる方は、まず、通常の業務が徹底できているかについてを振り返ることをお勧めします。

業務効率化のコツ

他にもいろんな効率化の工夫を伺いました。

一番面白かったのが、「事前チェックをしない」という考え方です。 昔、青木さんがビンテージの食器を輸入して販売していた頃は、現地のバイヤーが送ってくる商品を「検品しない」というスタイルをとっていました。入庫検品をしないのです。お客さんに向けて商品を発送する時には、出庫検品をします。ラクですが、リスクがありますよね。

そして、ここからがポイント。バイヤーと契約する際に、「出庫検品の際に問題があったら、仕入れからどれだけ時間が経っていても返品・返金する」というルールにしていたそうです。これにより、細かな検品を減らしてどんどん仕入れることができます。バイヤー側も気をつけるようになります。

これは、非常に象徴的な工夫だと思います。「事前チェックしなくても業務が回る」ように仕組みを設計するというスタンスです。
さらっと書いてますが、これがどれだけ効率を上げるか想像できますか。色んな業務でこのスタンスを徹底すると、累乗的に効率が高まると思います。

メディアやコンテンツが強調されて紹介されがちなこのお店ですが、実は、施策を実行しきれる体制や、その体制を実現する思考法こそが強みなんじゃないかなー。思えば、数年前に青木さんと話した時も、当時そこまでの規模ではなかったにも関わらず、自動発注システムの開発を検討していました。

徹底して考える

私、いろんな店長さんや経営者を見てきました。
青木さんの特徴は、とにかく徹底して考えるということにあるように思います。

色々うかがった中で、特徴的なのが「難題に見立てる」という考え方です。普通にやると絶対にできないようなことを、諦めるのではなく、「解くべき難題」と見立てて考えるそうです。

業務の流れの中で、出来なさそうな難しそうな事が出てきたら、これは無理・・などと流してしまいがちですが、一旦立ち止まって、そのように難題として文章化します。

言い回しは、
「○○をしないで○○する為には、どうしたらいいか?」
「○○と○○を両立させるには、どうしたらいいか?」
など。

勿論、毎回解ける訳ではないでしょうが、このように、きっちり問題を定義し、それに立ち向かうのが、非常に大切かと思いました。
私も実行しています。

「お客さん」と「組織」を定義する

どういうお客さんを対象として、どういう方針で、どういう組織で向き合うか。
ここが定まれば、経営の方針は自ずと明らかになります。

お客さんに発信する内容は青木さんではなく店長さんたちが主導権を持っているようですが、青木さんからは、その背景・土台となる考え方を伺いました。

お客さんを定義する

北欧という題材は、ややニッチです。それでいながら、同店は北欧という枠組みを超え、「北欧ファンではないより幅広い客層」にリーチしています。私には、ニッチを経由して広いマーケットを掴んでいるように見えます。

青木さん曰く、「マガジンハウス文化で育った客層」を意識しているとのこと。※「マガジンハウス」は出版社の名前で、ポパイやブルータス、オリーブ、カーサなど、「ライフスタイルを発信する雑誌」を多く出版しています。

マガジンハウス育ちの人々は、メディアから発信されるライフスタイルを受け入れて、日々の暮らしを整えていこうとする姿勢を持っているそう。安さや経済合理性以外の、「旬」「粋」「いとおかし」といった感性型の消費をする人々ともいえます。

こういった感性型の消費には「萌え」という文化もありますよね。これは、見た目で分かり易いので有名ですが、萌え文化の人よりマガハ文化の方が、人口として多いわけです。

つまり、「北欧的暮らし」をマガハ感性で捉え直す・見立て直すことで、ニッチを起点としながら、広い客層にリーチできているわけです。ヨーロッパの文化を既存の国内文化と融合させている感じでしょうか。ニッチ起点でも、良い意味での「拡大解釈」すると、大きなビジネスが出来るんだなあ、と感じました。他にもそういう事例は色々ありますね。

「コンテンツを作る組織」の作り方

そういったお客さんに向けてコンテンツを発信するには、組織作りも大切です。

まず採用条件が、「自社メディアに顔出し露出OKの人」という規定があります。なぜなら、同社では「日々の仕事と生活の過程の出来事をコンテンツ化する」ことが多いからです。皆がメディアに参加するわけですね。

そして、複数人でメディアを運営する際には、微妙な感覚の違い等が出てきそうなものですが・・・なんと、どういう記事が良いか、規定は細かく定義していないとのこと。その代わりに、「言葉を定義する」ことでスムーズに回っているとの事でした。

たとえば面白いコンテンツを作る為に、「面白さ」を定義しているそうです。「面白がらせようとすると面白くない。本当だから役に立つ、役に立つから面白い」とのこと。このように、言葉が統一されることによって、メンバーが自分で判断できるわけですね。

また同社は、組織の作り方にも特徴があります。採用は「1年に1回」です。まるで学校や新卒採用のように、同期と世代の先輩後輩が生まれます。また基本的に全員正社員採用を前提とするためアルバイトなど雇用形態が違う人はいません。

「会社が『機能する社会』になるためには、同期や先輩後輩という『縦と横の関係』が明確に存在することが重要」であり、「メンバーの同質性を大事にしている」からだそうです。

メンバーの多様性はあった方がいいのですが、根っこの所で、強い共通性がある方が良い。同じ価値観、同じ言葉を持っている集団の方が動きやすい、とのことでした。シンプルにモノを売る場合と違って、微妙な感性・感覚が影響するところですから、たしかにここは大切でしょうね。

こういった感性型の店は、「経営者(店長)の絶妙な感性」に依存してしまって拡大しづらかったりしますが、「言語化」を抑えているから順調に拡大してるんだなと感じました。この何年かで数回オフィスを引っ越ししているそうですw ウチも研修や「言語化」はすごく力を入れてますが、うーん、まだまだだなあ。。

まとめ

これ以外にも、様々な濃い話をたくさん伺いましたが、それは、また何れ別の機会でご紹介したいと思います。

「コンテンツマーケティング成功例」として有名な同社ですが、実は、その裏にある、実現する仕組みや考え方こそに、特徴があると感じました。

特に意識して頂きたいのが、何か新しいことをやってお店を成長させたのではなく、まずは「海外から商品を安く仕入れて、高く売る」という一般的な仕事を人並み以上にキッチリとやり、効率化した点。その土台が確立された後に、同社の成長が始まったという点です。

新しい考え方やツールがいろいろ出回ってくると、どうしても、気を取られますよね。このままのやり方でいいんだろうかと、もっと新しいことしないといけないんだろうかと、考えることもあるかと思います。けど、「まずは足下」なんですね。

そして、山の岩を眺めて「庭石と日本庭園」を思い描ける見立て力があるかどうか。同じ風景を見ていても、人によって違う世界が見えています。その違いが、結果の違いになるんでしょうね。

いつもの仕事の中に、まだまだ考え尽くす余地があるはず。
大きなヒントを頂きました。

PS
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カテゴリー: EC戦略論, 売上アップのヒント

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