こんにちは、坂本です。
ネットショップ業界では、Amazon(などの大手)が勢力を 伸ばしてくる中、不安になっている人も多いのではないかと思います。私も色々思うところがあります。小規模ECの今後について考えてみたので、以下、私見をつらつら書いてみます。
- 目次 -
Amazonとの向き合い方
Amazon怖い。
FBAとかではなくて、競合としてのAmazonとどう向き合うかという話です。
具体策というよりは「考え方」ですね。
思考停止しない
多くのネットショップ事業者は、「Amazonには資本力で勝てない」「早さで勝てない」と言います。でも、一般のお客さんに話を聞くと、Amazonの好きなところとして「使い勝手が良い」「ストレスがない」「サクサク買える」と言ってませんか。
ズレてますよね。Amazonって、「早さ」よりまず「使い勝手」が支持されていませんか(少なくとも私の周囲ではそうです)。であれば、資本力は関係ない。真似られるところはあるはずです。
これはあくまで一例。思考停止しないで、怖いAmazonの「怖さ」をじっくり目を開けてみるべきではないかと思うのです。そうすれば、冷静な判断ができるはず。
認知負荷を下げる
じゃあ、なぜアマゾンは使い勝手が良いと言われるのか。
まず、ご自分の、「ふだんのネットショッピング」について考えてみてください。10年前と比べて「ネットで買い物するときに、かかる時間」は短くなっていませんか?買い物をしようと思ってから、購入完了までの所要時間です。
昔より、サクサク買ってますよね。判断が早くなった。
食品や家具などで縦長商品ページを見るとして、昔よりもスクロールスピードが速くなっていませんか。昔は細かいところまで確認したりしていたものの、今では「あーはいはい」で買っていませんか。細かい情報を読み飛ばしていませんか。
昔と比べて、ネットで買い物する機会はますます増えていると思います。1日の限られた時間の中で買い物の頻度が増えれば、当然「1回の買い物にかける時間」は減ります。加えて、お客さんが買い物に慣れてきています。結果、「不安解消」よりも「時間短縮」の方が、大切になっているように思います。
ここで「認知負荷」という言葉を覚えてください。検索結果や商品ページなどを見て、書いてある情報を読み取り。理解する際に「脳にかかる負担」です。この負担が大きいとき、人は面倒だと感じたり、読み飛ばしたりします。分かりづらい=認知負荷が大きい。使いやすいサイトになっていると、この認知負荷が減るわけです。脳に優しい。見て疲れない。
で。多くの楽天系ネットショップは、「時間のないお客さん」に対して、少し「自分語り」をしすぎてしまっていないか。これは「自動販売機ECか対面接客ECか」という話ではなく、「気遣い」の問題です。
「語り」は大切ですが、でも同じ話を伝えるにせよ、もう少し端的にわかりやすく、認知負担を下げられるはずです。旅館に泊ったとき、疲れているのに「仲居さんの話が長すぎる」と困りますよね。Amazonと同じレイアウトにすべきとは思いませんが、姿勢としては学ぶべき点だと思います。
※当社でもたまに縦長ページを作ってますが、基本、「ぱっと見(ファーストビュー)だけで商品の要点が全て伝わる」ように作っています。セオリー中のセオリーなんですが、意外とできてない方が多いです。
ヨーイドンの勝負をしない
自分が、風呂に入っていると思ってください。「あ、シャンプーが切れた!」。こういうとき、やはり配送が早いネットショップは便利ですよね。
誰しも「シャンプーが切れかかっている」のはわかるんですが、ついつい注文は後回しにしがち。でも、ある日、遂に「やばい切れた」となるわけです。人間はだらしないもの。でもそんな人でも、配送スピードが早ければ安心です。宅配が早いサイトで買います。
でも、ギリギリで注文するからそうなるのであって。店側としては、「ギリギリで注文せずに済むように上手にリマインド」したりできないものでしょうか。あるいはもっと上手に定期購入に誘導するなど。
つまり、配送スピードは重要な要素ですが、「ヨーイドン」ではなく、何かの方法で「スタートを早める」ことでカバーできるのでは、という話です。
配送の話に限りませんね。「○○ができないから勝てない」ではなく、「○○が不要になる方法はないか」「なにか他の方法でカバーできないか」と考えるのが大切だと思うんです。
関連記事:「早さ以外」のアピール・・2008年に書いた記事です!
8年前から主張が代わり映えしませんねw
巨人の川上に立つ
大抵の場合、「お客さんが商品を欲しくなる瞬間」は、ECサイトやネットショップの外にあります。テレビで見たり、情報サイトを読んだり、人と話したりして、刺激を受け、商品を欲しくなる。
そうなれば、次にやる事は、「あの商品」を早く買うためにそのキーワードで検索をすることです。そうなると、「いろんな店・サイトと見比べられて競争する」ことになります。ここにAmazonも含まれます。価格、早さ、レビュー内容などの力勝負になります。
逆に、「自店舗の提案で購入動機を作る」ことができれば、当然比べられにくくなります。
以下、図解。
今よりもお客さんが少なかった時代、古いネットショップは当然のように取り組んでいました。今のお店は、もう少しここに力を入れるべきではないかと思います。コンテンツマーケティングの目指すべきところもここではないかと。
いわば巨人とぶつからずに川上に立つ。巨人の川上・・川上哲治ですねw 赤バット作戦。
多モール展開には注意
ほかにも工夫が出来ることは沢山あるんですけど、また別の機会に書きます。
ところで、楽天のシェアが相対的に落ちたことから、本店を含む多モール展開に拍車が掛かっているようです。ただ、これは「本質的な問題」への対策にはなりません。「本店を伸ばす」のも同様です。
たしかに大切ですが、もっと大切なのは、本店や「狙い目のモール」ではなくて、「ほかにも便利な大手サイトがあるけど敢えてこの小さい店で買う『理由』」を作ることです。 改めて後述します。
また、売上げの伸ばし方・体制強化のやり方によっては、目先は伸びても「いまの資産があしたの負債になる」可能性もあります。目先のことと先のこと、どちらかではなく両方考える必要があります。(自戒です・・)
未来のECを想像する
「Amazonこわい」への対処法は、とりあえずこんな感じで。
ここからは、その先のこれからの話。
そもそも本当に怖いのは
本当に怖いのは、Amazonではないと思ってます。
怖いのは、「ネットの神様」です。ネットには、それはそれは恐ろしい神様がいるんやで。
いや、大丈夫です。私は正気です。
ネットの神様とは・・
- 破壊と創造の神様です
- 「無料」「直取引」が大好きで、それをやっている会社を、ものすごく持ち上げます
- でもその会社が、疲れて一休みしたり、「既得権益にあぐらをかく」と、一気に叩きつぶします
- 人間の常識には興味が無いので、「現在の法律では違法」なサービスも大好きです
要は「ネット上の市場原理」を神様に例えています。インターネット上で、この神様の意思を忠実に実行している司祭たちがGoogleやシリコンバレーのベンチャーだと思います。人間の常識よりネット神の教義に従うので、法律や政府とぶつかります。たとえば冷静に考えてみるとYoutubeは著作権違反の巣窟です。でも人間より神の意志に従ったほうが成功したりするわけですw
EC業界では、アマゾンが熱心な信者だと思います。つまり、アマゾンのアマゾンらしい売り方は、「ネットの神様の意思=インターネットと社会が融合して向かう方向性」を踏まえてのことだと思います。なので、もしアマゾンが存在しなかったら、他のどこかの会社がやっているはず。
2020年のお買い物
ということで、この神様がお作りになるであろう、数年後の買い物について考えました。妄想です。いろいろ中抜きして、いわば「摩擦係数」がゼロに近づいていくイメージです。
- 誰が何を買っているか。どこで何を作っているか。そういった情報が今以上に高精度になり、その情報を握っている大企業では、無駄に仕入れたり作ったりすることが減り、物流の効率も上がり、極端に生産性が高まる。一部企業間で情報を提供し合う。
- 無駄が減ったので、より値下げができるようになる。国際分業で原料も安くなる。「皆が使う定番品」は更に商品開発が進み、手作り品質に並ぶ。たとえば「取り寄せスイーツ」とコンビニスイーツの品質が拮抗する。しかも安くて新鮮。
- ぽちっと押すと、「地域ごとの物流センター」から自宅まで即座にデリバリー。買い物の80%は定番品なので、大抵センターからすぐ届く。
- 人工知能で提案。スマホが「いまこれいるでしょ、買う?」と聞いてくる→タップして「はい」。「そろそろ食パン買うんでしょ」「キングダムの85巻出たけど買う?」。スマホゲームやニュースアプリのように、開発者が提案精度を高めていく。
- サイト・アプリ上でも自動提案。ネットスーパーを開いたら「前回買ったのはコレ。ここから選ぶ?他にする?」
- つまり、安くて上質な定番商品が、選ぶ手間なくベストに提案してくれる。それに黙って乗っていれば、最適化された買い物体験が出来る。いわば究極の「配給」。
- カーナビ等により「道を覚えなくて良くなった」ように、「買い物」から主体性が減っていく。
- 若い世代は上の世代よりも「良いものは高い」という先入観が少なく、物欲も薄いため、「配給」的な消費で十分満足する。
「ネットの神様が好きそうな展開」はこういうのじゃないかなと。
書いてみて思いましたが、既に実現しているものも多いですね。が、ここから何年か掛けて、買い物のメインストリームにおいては、これらが普通になっていくように思います。
進むべき道はどこか
破壊神が猛威をふるう未来のECにおいて、我々はどこに向かって進むべきか。
イレギュラーを担当する
いま、コンビニさえあれば生活できてしまうように、未来でも、生活の大部分は「配給EC」でまかなえてしまうかもしれません。
でも、標準が便利であっても、そこから離れてみたいのが人間。都市に住んでいて、わざわざキャンプに行くようなものです。配給された商品ではなく、「まわりの人が入手できないモノ」が欲しくなることもあるはずです。
いわば、イレギュラーな要望です。人間の非合理性なところではあります。
でも、豊かさとは、「多様性」「選択肢の広さ」だと思うんです。
なので、我々のような中小事業者の仕事は、「『配給』では生み出せない豊かさ」つまり、ある種イレギュラーな商品・サービスを作ることなのかな・・と想像しています。
関連記事:西部開拓に学ぶ話。2009年の記事です。
例えば何をする?
極端な商品
前述のコンビニスイーツのように「標準的な商品」は、求める人が多い=市場が大きいので、大手がゴリゴリに頑張って、品質の高いものを作ってしまうと思います。
そうではなく、標準から離れた「変な商品」「極端な商品」は、市場が小さいので、大手があまり熱意を持たないはずです。一方で、物珍しさからメディアでの露出は大きいはずです。そういえば、さっきテレビでハワイ料理専門店による「ハワイ鍋」が紹介されました。
いまでも「○○すぎる○○」というフレーズは鉄板です。なので、そういった規格外の商品は、中小事業者にとって狙い目ではないかと思います。ライバルの多いど真ん中を狙わず、外す。それも「極端に外す」んです。
○○専用サービス
主要サービスは高度にシステム化されていると思います。が、幅広い需要に応えるために、ある程度汎用的な設計になっています。なので、デフォルトのシステムだと対応出来ない分野があるはずです。
現在のECで言うと。。たとえばAmazonではサイズオーダーなどの特殊な注文が難しいです。楽天はもう少し自由度がありますが、まだ不便。
こういった「買うのが面倒」な分野に該当する人は、うまくシステム化・サービス化できると良いかもしれません。標準では対応出来ない、特化して整えられた「○○専用サービス」です。ちょっとしたシステムって、結構簡単に作れます。いまはクラウドソーシングでエンジニア探すのも簡単ですしね。わたしも趣味でプログラム少し書けますし、うちの某社員も趣味でアプリを作っています。
それができれば、大手を差し置いて買う理由になります。まあ、良いサービスを作ったら「知ってもらう努力」も必須ですが、それが支持されるものであれば、自然と追い風が吹くはずです。
ちなみに、以前このブログで紹介した「北欧暮らしの道具店」では、普通どこかのレンタルカートを使うのが一般的なのに、現在「自社エンジニアが自社専用のカートシステムをゼロから開発中」なんだそうです。社長さんから話を伺いましたが、かなり戦略的な狙いがあってのことです。完成が楽しみです!
まあ、まずはゼロから開発と言わず、プラグイン的に機能追加するだけでも十分だと思います。あ、「何かシステムがありさえすればいい」では無いので注意してください。こういうのは、作る技術より企画センスが大切です。
「お節介」をする
そして「システムを越えるのは人間の提案力」です!・・といいたいんですが、なかなかそうとは言い切れません。システムの精度は年々高まっていきます。
この本によると、とある会社が、「経験に基づいたベテランのマーケター」VS「履歴に基づいた人工知能」で、どちらが成績が良いか勝負させたんだそうです。結果は、短期では経験豊富な人間の勝ち。しかし、データが溜まった後は圧倒的に人工知能の勝ちでした。残念。
でも長期的に見ると、人工知能の成果が落ちていったんだそうです。それは、成果が出たものの「長期的には機会損失があった」。なぜなら、人工知能は純粋に履歴だけから判断するので、狭い範囲でのヒットしか出せないんです。要は、人工知能は「精度の高い前例主義」なので、それ以上の成果は出ないという意味だと解釈しました。
なるほど人間が頑張る余地はありそうです。ただ、人間VS人工知能と捉えないほうが良さそうですね。強みが違うので張り合っても仕方がありません。中小事業者も、できるだけ情報やツールを活かしつつ、そこに個人のセンスや思い入れを載せていって、お節介をするといいと思うんです。
「どうぞお越しください、この中から何でも選んでください」ではなくて、「ちょっと待ちなさい。あなたはこれを買うべきです」というスタンスです。あるいは、売り手ではなく「買い手の先輩」ポジションと言えるかもしれません。「猫ちゃんはコレでこうやってあやすと可愛いんだぜ」「先輩すげえっす、付いていきます!」。
データじゃなくて、気持ちで買うってのはあると思うんですよね。「売り手の人格を掛けた全力提案」であれば、ドンズバじゃなくても、乗ってみようかなと思うものです。人間なので。(尚ここでいう全力とは、熱い口調という意味ではなく、プロポーズばりの「考えを尽くした言葉」という意味です)
ただ、前述の「話の長い仲居さん」にはならないように要注意。見るべきデータは見た上でセンスを発揮して頂きたいところです。
他にも色々
つまるところ我々は、ECの定義を拡大しないといけない。ネットショップとは、「Webページにカートボタンが付けたもの」というだけのはずはない。
色々できることはあるはず。
考えれば、いくらでも可能性は広げられると思うんです。
私、たまにこういう話題をテーマに講演をしています。そこで話しているのは・・見立てを変える、狭い客層に特化、ジャーナリストになる、メディア、大手商品にパラサイトする、などなど。と言われてもよく分からないと思いますが、いずれご案内しますね。(忙しくてたまにしか講演やれないのです・・)
最後に
イレギュラーをレギュラー化する
大手により流通が徹底的にシステム化された場合、中小の生きる道は「システムの外」「非合理性」なのではないか、とお伝えしました。
これはつまり、「標準システム外の仕事を受ける」ということです。システムで出来ないことを中小事業者が拾ってやる感じ。なので、基本的には「面倒」なはずです。本当に身一つで・・手動でやると、体を壊しそうです。なので、イレギュラーを事業化するためには、それを効率化して仕組みに落としていく力が必要です。
お客さんへの愛情故に、非効率な働き方をしてしまい、余力が無くなっている人が居ます。逆に、電話応対を強化するとすごく伸びそうなお店なのに、「それは面倒なのでやらない」という判断をしてしまう人が居ます。でも、思考停止しないで、「面倒なことが楽になる工夫」を追求して欲しいなと思います。
ある種の深海魚は、何億年もの間、絶滅せずに生き続けています。競争を避けたい我々としては、理想です。それができたのは、難しい状況でも生きられるように自分を鍛えたからです。競争を避ける代わりに、「生存困難な環境に適応する」という、より難しい仕事を己に課したと言えます。厄介な環境が苦にならなくなる工夫が必要です。
※これを当社では「ブラックオーシャン(=深海)戦略」と呼んでいます。
捨てるべきは捨てる
私は「中小規模のネットショップ」の文化がすごく好きなのですが、でもこれからの未来を考えたときに、古くなった、価値が低い箇所と、残すべき価値が高い箇所とがあるようにも思うんです。本質ではない箇所は、固執せず、手放した方が良い。
手放すと、代わりに何かを得られる・・ってよく言いますよね。いまmustだと、こうじゃなきゃいけない思っていることの中に、多分削っていいものがあるかもしれません。で、それで身軽になるかもしれません。
我々は哺乳類である
我々は小規模なので、つい「大手に捕食される」的なイメージを持ちがちです。脅かされていると。
でも実は、大手のほうが大変なんじゃないかとも思います。
前述の「配給体制」は、民間企業によって作られるものですが、半ば公共のインフラです。市場規模として大きいので、大手同士が、インフラの座を巡って、莫大な金と労力をつぎ込んで争っていると思ってください。ヘビー級同士の壮絶な食い合いです。
加えて、未来の消費者は、昔よりも遙かに賢く、浪費しない消費者です。「近所の人と不要品を融通し合う」「貸し借りする」なんてこともしてしまいます。だから、昔の大手と違って、次の大手は昔より大変そうです。
そう考えると、大手と中小は、「恐竜と哺乳類」のようなものだと言えるかもしれません。
図体の大きい恐竜より食べものは少なくて済むし、エネルギーの燃焼効率が良く、小回りがきいて、環境適応能力が高い。まさに中小の理想。うちも小さい会社なので、哺乳類でありたいなあ。
恐竜が争っている脇で、我々は小さく賢く、上手に立ち回り生き残っていきたいものです。
ところで。
この記事を書いた前年に、子供が生まれました!
成人式まであと20年・・などと考えると、自然と、未来について考えることになります。そんなきっかけで、この記事を書きました。
これから商売の環境が色々変わっていく中で、大変なことがあると思います。
でも、時代や景気のせいにせず、「こんな荒波が来たけど、そのとき俺はこう考えてこうした」と子供に対して言えるように、前を向いて頑張ろうと思います。
PS
「世の中は変わってるし、うちも変わらないといけないのかなあ」「でも忙しいし、何をしたらいいのかなあ」という方は、弊社コンサルティングがお役に立てるかもしれません。興味のある方は、以下のページをご覧下さい。
カテゴリー: ECの未来