『商品愛がない』からこそ売れる、というネットショップ事例が意外と多い件

こんにちは、坂本です。

今回のブログ記事は「当ブログ読者と話しながら下書きする」という実験をやってみました。 通称「壁打ち」

やってみたところ、面白い話が色々出てきて、ボールがどこかに飛んでいった結果、当初予定と全然違う内容になりましたw この「壁打ち」企画、また時々やりますので、参加してもいいよ、という方は是非挙手してください。

今回はネットショップ店長さん二人とお話をしました。話す中で感じたのは、実は「商品愛がない方がスムーズに売れる場合もある」という仮説です!前回のブログとは全く逆方向ですね。一体どういうことなのか。

実は、商品愛の強い人は、ある大きな「落とし穴」にハマるリスクがあるんです。つまり「愛は盲目」という話です。

壁打ち1人目:「商品愛が全くない」店長

「壁打ち」企画、お話しした一人目は匿名希望のネットショップ経営者Aさんです。

「いつもブログ読んでます!前回の小島屋さんの記事もとても良かったです」
「ありがとうございます!Aさんの商品も偏愛感のある商品ですねー」
「いやーーちょっと他では言えないんですが・・坂本さんだから言うんですけど・・実は私、売っている商品に全く興味がないんです」
「えー!」
「嫌い・・いや嫌いというほどではないんですが、 なんでこんなもの買うんだろうと思ってます」

意外や意外!こんな会話から壁打ちが始まりました。私、当初予定との違いからすっかり出鼻をくじかれてしまい、、いろいろお話を聞いてしまいました。

すると、この方、商品に興味はない代わりに、市場や顧客の特性を冷静に観察していました。適切なポジショニングとよく出来た戦略でお店を運営されているわけです。商品愛の少なさからか、あっさりしたページですが、十分に伸びしろがあります。見ているだけで売れる施策が次々にイメージできる状態で、手を入れればこの先さらに、かなり売れるだろうな・・と感じさせられました。

一番お伝えしたいのは、Aさんが強調していた言葉。
「同じような商品を扱うお店は他にもたくさんありますけど、その人達は商品が好きなんです。だから売れないんです。でも私は商品に興味がないので、うまくやっています。

一体どういうことなのか?後ほど解説します。

壁打ち2人目:「ベネフィットを忘れた」店長

2人めの壁打ち相手もネットショップ経営者で、N中さん。この方、私と同じく、元楽天社員で、楽天大学の講師をしていました。私は当時新人だったので、色々教えていただきました。僕にとっては大先輩です。

楽天を退職し、実家のお店を継いでネットショップを立ち上げました。
「おひさしぶりですー。いやー変わらないですねー。今度ランチ行きましょう、近所だし」なんて話から始まりました。こちらはスムーズ。

思い返せば17年前。この人や楽天大学から学んだ概念の中に「ベネフィット」というものがあります。ベネフィットとは、収納用品を買った人がいるとして、その人が本当に買ったのは「収納用品」ではなく「部屋が片付くこと」であるといった概念です。有名ですよね。始めて聞いたときには感銘を受けました。

こないだのブログよかったですよー」
「ありがとうございます、まあ今も昔習った『ベネフィット』を意識していて・・」
「あー・・最近あんまりベネフィットについては考えてないなぁ」

まさか!衝撃の発言。そんな。。17年の間に一体何があったのか!後ほど解説します。

「商品愛がないから売れる」理由

まず1人めのAさんについて解説しましょう。愛がないのに売れる。いや、愛がないほうが売れるとは、どういうことなのか。

この方曰く、このジャンルの一般的なお店は「その商品が好きで店を始めた人が多い」ので「よいと思った商品を何でも扱ってしまう」。一方、Aさんはもともと商品に興味がないので、競争が少なく単価が高い商品に絞り込んで、かなりニッチな専門店として運営している。だから仕入れなどいろんな工夫をしている。一方、同業者は商品愛があっても、工夫はしていない。

つまり、

  • 一般的なお店は、お客さんよりも商品の方が好きで、商品ばかりを見てしまう
  • 自分は、商品に興味はないけど、ビジネスの合理性や、お客さんの行動を観察している

ということです。なるほど。

「私、前職でセールスやってましたが、その業界のトップセールスはみんな商品に興味ないですよ」
曰く、商品には全然興味がなくて「売れるという現象や、お客さんの心理が動いて最終的に契約に至るそのプロセスに対して強い興味がある」トップセールスが多い、とのこと。

ふむふむ。「商品愛が目を曇らせる」ことがあるのかもしれないな・・愛は盲目。

商品を見るのが「職人」、事業を見るのが「事業家」

そういえば私、最近、他にも「商品愛が薄め」の人とお話しました。

その人は「商品に興味がないわけではないんですが」と前置きした上で、「どちらかというと、商品単位でベストを尽くすのではなく、扱いにくい商品を扱うことは諦めて、スムーズな管理体制を作って、事業としてのベストを目指している」「この管理体制によって規模拡大が可能になった」「そのぶんお客さんに対しては、いまよりもっと気軽に○○を買えるようにしたい」とのこと。さっきの匿名さんと似てますよね。

どこが似ているかわかりますか?商品よりも「サービスや事業としての完成度」に意識を向けているという点ですね。言ってみれば「事業的」なスタンス

ちなみに、この反対は「職人的」なスタンスです。経営や事業というよりも自分が作っているラーメンそのものに愛情を注いでいるような感じ。職人的なスタンスで寿司を追求すると究極を目指し「銀座の高級店みたいな美味い寿司」に近づこうとしますが、経営的なスタンスで寿司を追求すると、 捨てるものは捨てて全体最適を目指し「客足の切れない回転寿司」になるイメージです。 ちょっと極端な例えですが、イメージとしてはこんな感じかと。

職人は没頭し、事業家は俯瞰する

商品愛の強い職人志向の商売はその世界に没頭し、 世界観が大きな魅力になります。一方、事業志向の商売は、商品愛で盲目になっている職人さんを尻目に、ドライに「従来の職人の問題点」をクリアしたサービスを作ります。

すなわち、 職人は没頭し、事業家は俯瞰する

前回の記事では職人的な偏愛ワールドについて語りましたが、事業志向の商売は、 思い入れなく合理的に状況を判断し、お客さんの心理をよく観察するので、お客さんからは「そうそう!そういうサービスが欲しかった」と言われる地位を獲得することがしやすいように思います。職人比率が高い業界の中では特にそう! これ鉄板ですよ

※こうやって書くと事業家が悪い人に見えますかねw どうも日本人の文化なのか、純粋無垢な職人を尊重する、あまりお金のことを考えない振る舞いを是としてしまうところがあり、それが 職人が金勘定が苦手になる要因だと思いますね。これは良くない!

ともかく、職人志向と事業志向、それぞれに価値があり、 それぞれに弱点もあります。

職人志向の経営者は、「行き過ぎた商品愛」が強い副作用を生んでいる可能性がありますよ。たとえば利益率や業務効率を考えずに突っ走り、スタッフが何か言ったら思想を説いて無理をさせてしまうとか。論点は思想じゃなくて業務手順なんですが。ああ耳が痛い。

スタッフのいない個人店舗の職人さんも、ある程度は合理化すべきです。「職人の店」は、お客さんの立場からすると楽しいものですが、本人からすると何年もやっていくうちにどこかで疲れてしまうリスクがありますし、弟子が現れないと惜しまれつつも途絶えてしまうことが多い(もったいない!)。

一方、事業志向の経営者は、職人と違って「合理的に考えると皆その結論に至る」ところで勝負しているので、模倣しやすい、競争になりやすいところが課題かなあ。競合同士で、いたちごっこになりやすい。。まあ、職人比率の高いニッチ業界で合理的にやれば大丈夫だろうと思いきや、10年以上ECやると、昔のブルーオーシャンが赤く染まったりしますよね。そう考えると、職人的な「属人性のある強み」は、事業家っぽく拡大する際には障害にもなりますが、事業家から「模倣されない」という意味においては強みだと言えますね。

まとめると、職人志向だと、愛ゆえに盲目になり、事業として脇が甘い場合があります。しかし、 事業家的な設計だけでは、 模倣されて競争に巻き込まれる懸念があります。

「デジタルな頭脳&ヒトの心」を組み合わせる

前回、私は偏愛礼賛の記事を書きましたが、でもこれからは偏愛の時代だというのは、言い過ぎました。職人志向と事業志向は両方大事です。

※余談ですが私、以前から「○○はもう古い」というロジックが苦手でして、特に前述の、計算や作為を否定して、イノセントであること、無垢かつ無策であることを是とする空気が苦手です。ちなみに前回紹介した小島屋さんは、昔は「運営管理のスキルが高い人」として有名でした。 元々はすごく合理的なタイプです。商品愛だけの人ではないんですよね。

20世紀は、職人志向が非合理的で、事業志向が合理的だったんですけど、現在では必ずしもそうでもないですよね。 合理的な事業の中にも非合理的な要素を組み入れないとすぐに陳腐化してしまう、という懸念が強まっているから、前回の記事で書いた[偏愛的アプローチ]が、いま多くの事業家から注目されているんだと思います。

そんな感じで、 矛盾している二つの要素を融合させることが、これから大切なのではないかと思います。職人的な、偏愛や没頭する力。そして、事業家的な、俯瞰して合理的に勝負する力

よく言われる概念で「モノよりコト」という言葉がありますね。モノを売るのではなくコトを売りましょう、モノ<コトだ、といった調子で語られます(ベネフィットの話と同じです)。ただ実際のところ、多少コトについて語れたとしても、モノの管理ができてない状態では、 お店が大きくなることはできません。継続して売れている人は、まず「モノ的な基本の管理」を確立して、その上で「コト的な販促・表現」に意識を向けている

「モノよりコト」ではなく「モノ&コト」。両方やっているんです。下部構造と上部構造と言っても良いかもしれません。MDや利益管理、経営管理が店の土台=下部構造である。その上に販促やブランディングの要素が乗っかっている。

これ、前述の「事業志向・職人志向」と同じです。事業志向は、下部構造重視。商品愛のある「職人志向」は、上部構造重視みたいな感じ。これらは相互補完的で、両方必要だと思うんです。

そんな感じで、俯瞰してみると、「回転重視」みたいな下部構造の工夫も、「偏愛」みたいな上部構造の特徴も、事業の一部なんですよね。だからやっぱり、2つの要素は両方大事。

ちなみに前述の「ベネフィットを忘れた」N中さんについて。楽天時代はベネフィット等の上部構造を教えていましたが、店舗側に回ってみると、意識の中心が下部構造・・つまり商品の在庫数やキャッシュフローになっているご様子

実はN中さんの店舗ページは、利用事例や用途提案、専門家としてのコメントなど充実しています。でもページの類は一度作れば一応機能するので、意識からは薄くなる。だから、日々変動する在庫や受注情報への意識が強まるんでしょうね。つまり、N中さんが「ベネフィットを忘れた」と言った件は、かつての講師が事業主になって、全体のバランスを取ろうとした結果だろうなと思います。

進化は「矛盾が矛盾でなくなるとき」に起こる

そういえばよくあるのが、親子で経営者という場合、先代社長が事業志向で、若社長が職人的というか「モノよりコトだから親父は古い」的なスタンスで、親父側は「お前の言う事は机上の空論だ」などとお互いを否定しがちだったりしませんか。

※あ、いま「自分のことを書かれた」と思った方、わたし少なくとも5人は同じ状況の方を存じ上げていますのでご安心ください。もっと昔の時代は、先代がガチ職人で、昔の若社長(今の先代社長)が事業志向で、対立してたりしそうですね。時代は巡りますね(妄想)。

そんな感じで相反する要素は対立しがちなんですが、でも、人の世の理として、一見対立する要素を融合させること。言い方を変えると「矛盾を抱えておく」ことが進化に繋がるんではないかと思います。

とはいえ、人間は偏っているので、これを読んでいるあなたも、職人志向か事業志向、どちらかに偏っていると思います。そういう場合は、自分と違ったタイプで、自分をフォローしてくれる「右腕的な存在」がいると、バランスが取れていいでしょうね。

さて一瞬さりげなく宣伝をしますが、弊社のコンサルタントは、単なる売上アップ提案だけでなく、組織改善、利益率の向上、冤罪気味な楽天指摘対応、やっちまった系トラブルの対応、運賃が上がったので価格改定しないといけないけど値決めと値上げ通知や時期をどうしよう対応、いろんな考え事の壁打ち相手、諸々対応しています。契約しても料金はアルバイトさん1人分程度なので、色々悩める方は、こちらのページをご覧ください。

最近は大型店舗のコンサルも解禁しまして、既に複数のSOY店舗をご支援しています。私も一緒にやってます。あまり表に出しませんが有名店での実績もあるので、「俺の悩みは誰にも解決できない」と思っているツワモノもガツンとご相談お待ちしてます。

まーでも、いま重要なのは、デジタルな頭脳&ヒトの心の組み合わせだと思うのです。特に、ヒトの心から種が生まれ、デジタル世界で花開くという展開が多い気がしますね。てことは、職人志向と事業志向、合理的な人も非合理的な人も、どちらのタイプの人も活躍できるはず。難しいけど良い世の中になってきたように思います。

私は、 大手プラットフォームが世の中を便利にしたあと、中小の商売人の多様性が世の中を豊かにすると思ってます。つまり我々は「世の中の多様性と豊かさを担当する係」ですから、お互いを否定せず、いいとこを出し合って頑張っていきたいですね。

PS
バランス感覚について補足。経営者とか店長は、事業志向だろうが職人志向だろうが、受注処理とかルーチンワーク・現場仕事を自分でたっぷり抱えている場合、むしろ現場仕事に意識を持っていかれるので目を曇ってしまうリスクがあります(リサーチ的に現場仕事するのは大切ですが、ガチで現場仕事をするのでは 意味が違います)。

まず余剰時間がなければ何も始まらないので、忙しい人は何よりまず業務改善を意識してみませんか。ちょっと売れたらすぐパンクすることがわかってる状態でアクセル踏めないですよね。

弊社コンサルでも最近は、ネットショップの業務改善とか「新しい商売をするための余力を作る」提案に力を入れたところ、業績がV字回復するなどの成果が出てきています。思い当たる方はぜひ考えてみてください!

カテゴリー: ECの未来, EC戦略論

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