仕入れECは「エージェント化」で存在意義を回復する 2021年のEC業界展望 #3

こんにちは、坂本です。
今回は、「2021年のEC動向について考える」シリーズ記事の第3回です。仕入れ型ECの進化形態として「エージェント化」について考察します。※メーカーECの方でも参考になります。

今年は、EC市場の益々の活性化により、競争の激化が予想されます。
特に、仕入れ型ECで、独自の競争力を持たない場合、厳しくなる恐れがあるかも、と考えました。そこで今回のテーマです。「短期的な収益の最大化ではなく」持続的に売れ続けるために何をするべきか?その一つの答えとして、競争力の源泉になる「エージェント化」という考え方を紹介します。

ところで坂本は、会社員時代に、アフィリエイトで月100-150万円くらい稼いでいたことがあります。ウハウハでした。「短期的収益は最高でしたが、持続的競争力への投資を怠った」ため、その後、完全に競合にやられてアフィリ収入はゼロになりました。そんな悲しい事例が起こらないよう、状況が厳しくなる前に備えてください。私の失敗を踏み台にしてくださいね(;_;)この話も後述します。

はじめに

この記事を書いた理由

何年か前から私の周囲では「これから仕入れ型の EC が厳しくなるかも」という意見をよく聞きます。厳しくなる論拠は、「オリジナル主体のECであれば全く同一の商品が存在しないので価格競争に巻き込まれないが、仕入れ型ECの場合はその反対で、競争に巻き込まれやすい」「どこで買っても同じ商品であれば、徐々に大手に削られてしまうのではないか」など。

まあ私の意見としては、オリジナル主体の人だって、美味しいロールケーキが通販で売れましたーつっても、似たような商品作って追随することは簡単ですから、どっちも大変で、仕入れ型ばかりが厳しいってことはないと思ってますけどね。

ただ、本格的にデジタルが小売の中心に来る世の中では、確かに「一部の仕入れ型EC」は、この先厳しいかもしれません。そんなわけで、この記事は「先のことを考えたい人」に向けて書きました。「目先で忙しくてそれどころじゃない!」という方は、この記事を読む必要はありません。まずは余裕がないといけませんから、まずは販促や「通常業務を効率化して時間捻出する」系の情報を当たると良いと思います(弊社サイトにも色々ありますのでぜひ)。

色んな波が来そうですが、店舗もシステム屋も制作屋もコンサル屋もみんなでちゃんと乗り越えて、これから先も「中小ECの多様性が価値を持つ世の中」が続くことを願っています。頑張りましょうー。

※このシリーズ記事では、「問題解決する施策」そのものではなく、「施策を生み出す状況認識」の言語化を目指しています。

普段なら弊社内(のコンサルメンバー)と話すような類の話でして、コレを頭に入れておくと応用して様々な提案ができる、いわば「施策のタネ」ですね。よって施策そのものではありません。ちょっと難しいかもですが、コレを必要とする方に届けばと願っています。

この記事の要点

長くなるので、先に結論を書いておきますね。

仕入れ型ECは、
(1)課題として「埋もれるリスクがある」ので、
(2)対策として「エージェント化を考えるべき」

と、考えます。

1.埋もれるリスクとは?

仕入れ型ECの本質的課題を以下のように定義します。

  • そもそもEC事業は「全国大会」なので比較されやすい
  • そして仕入れ型は「商品が結構同じ」なので尚更比較されやすい。単純に比較されると、パワーゲームになりやすい。中小にはきつい。

対策の方向性は2つです。「パワーUP」と「差別化」。

まず、仕入れECはパワーゲーム要素が強いという現実を踏まえ、パワーUP。
ただパワーだけでは勝てないので、単純比較以外の差別化要素も作りたい。

詳しくは後述します。

2.エージェント化とは?

上記の方向性をいかに実現するのか。その方法として、エージェント化を提案します。エージェントとは、「お客さんの味方」として購買支援をする存在です(詳細は後述)。

エージェント化の順序は2つです。「専門化」と「サービス強化」
まず、専門領域を決めて絞り込むこと。専門特化は、客層を絞る一方で、色んなプラス効果があります。昔は「手を広げる」のが有効でしたが、変わっています。いまは「狭めて尖る」と刺さる感じがします。

専門化を経て「当該の領域ならではのサービス」のレベルを上げていく。専門化は、CSやバックヤードなどの業務プロセス進化を促します。出荷スピードの早期化など(つまりパワーUP)。

また専門化は、購買支援もやりやすくなります。ドラえもんで例えると、静的なECサイトは「単なる四次元ポケット」に過ぎません。目指すところは「四次元ポケットの案内ロボ」ではなく「四次元ポケットを活用し、のび太の味方」です。

以上2点に基づいて、この記事の前半では、仕入れ型ECの「埋もれるリスクがある」問題について考察し、記事後半では、対策としての「エージェント化」について説明します。

前編:長期的に安定して商売を続けるには?

ここから本題。

まず、「仕入れ型ECは、どのような競争にさらされているか」の状況を整理します。ここをご理解いただくと、後半の対策がわかりやすくなります。お付き合いください。

「比較にさらされる問題」

1:EC事業はそもそも全国競争

以前にも書いたように、仕入れ型に限らず、EC事業は「お客さんからの比較にさらされる」商売ですよね。まず商圏が広い。実店舗が地方大会なら、eコマースは全国大会ですよね。実店舗は、地域一番店になれば安泰でしょうが、ECの場合は全国で1番になるのは大変です。全国で1番安い店、全国で1番おいしい店、大変ですね無理ですね。もしそうなれば強いわけですが。しかも10年連続で全国チャンピオンになるとか大変です。

そもそも考えてみると「小規模の小売店」と言う事業形態そのものが、実店舗の時代を前提としています。昔の、通販が発達していない世の中では、在庫は地元に置くものでした。そのような20世紀の世の中において、ECを立ち上げる際には小規模の小売店にECモール形式で参加してもらうことはスムーズでしたが、現在は状況が変わって、業態の移行期にあるのかなーと。

いまやセンターから発送できるわけだから、「モノの置き場としての小売店」の色は薄くなり、本来の語義である「1人1人に小さく売っていく小売」すなわち、サービス業としての小売が色濃くなっていくと思ってます。後述。

2:仕入れ型は「商品が同じ」だから更に比べやすい

コレに加え、仕入れ型にはもう1つの問題があります。オリジナルの商品と比べて仕入れ型の商品は、「商品が同じだから損得の比較がしやすい」

例えば、自社ブランドの「シェフ坂本のカレー1食800円」と「山田の匠カレー1食1200円」は別物ですから、単純比較されません。でも「ククレカレー」はどこで買っても同じ=比較がしやすいから、「商品以外」の取引条件・・安い・早い・ワンストップで買いやすい・ポイントが多いなどで、バッサリ判断されますね。

仕入れ型ECは、勿論こういった「取引条件」要素を改善すべく出荷リードタイムを短縮するなどの努力も必要ですが、それだけをウリにすることが難しいので「それ以外の差別化要素」もほしいところであります。後述。

3:ライバルが増えるから更に競争が激化

理由はいわずもがなですが、EC参入増加により従来の延長線上ではない競争になりそうで心配です。大手は必死に参入してきますから、以前とは全く違う状態ですよね。(だいぶ以前から言ってましたけど、いよいよ)

まとめ

  • 仕入れ型ECは、「ECは比較にさらされる」問題と「取り扱い商品が同じだから比較しやすい」という問題が掛け合わさって、競争にさらされやすい
  • 更に今「EC参入が超絶活発化」することで、すごくパワーゲームになります。大手が有利で中小には不利
  • そこで比較されても選ばれるために、まず業務プロセス改善(後述)など地道なパワーアップが必要ですが、でも大手にはパワーだけでは勝てないので更に「速さや安さ以外の競争力も追加していく」必要があるわけです。
  • 私も皆さんも、日々忙しい中で「今売れてる商品」「今売れるイベント」「今売れる方法」と短期&短期で状況判断するほうが多いですよね。ただこれは長期的な構造変化なので、時間とって考えないとなー。。
  • ピンチだけではなく、従来の市場環境から変わるときは、これまで出来ていたやり方が使えなくなると同時にこれまでとは違うチャンスが出てきたりしますし。

競争が激しい=競争力がないとヤバイ

以上のように競争が激しいので、今は安泰に売れている状態でも、必ずライバルが登場します。真似てきます。

なので「ライバルがいても埋もれないような工夫」「ライバルと競争せずに済む工夫」が必要になります。そういった「工夫」をしないと、どこかの段階で売り上げが落ちていきます。

3びきのこぶた的にいうと、工夫がない事業は「ワラの家」、持続的な競争力を持っている事業は「レンガの家」ですね。ワラの家は手早く構築できますが、オオカミがやってきて息を吹きかけると飛んでいってしまいます。多少の手間をかけてでも、強い家を作りたい。そういった工夫がないと、オオカミに食われます。

坂本の「競合に食われた経験」

私は食われました。冒頭書いた、坂本のアフィリエイトサイトの悲しい事例を解説します。

坂本は大昔、前職(楽天)に勤務してた頃、当時三木谷さんが朝会で「アフィリエイトは副業扱いじゃないからどんどんやってね」、と言っていた(今はわかりませんが)ので、どんどんやりましたところ、給料を超えてしまいまして、良いときには月100-150万くらいの収入になってました。結婚式の費用は全てアフィリエイトでまかないましたw

このサイト、SEOとかコピーライティングも頑張りましたが「転換率と客単価が跳ね上がる結構すごいアイデア」を搭載してて(スパムではない)、そのおかげで好業績だったんですが、これのアイデアは「見ればバレる」んですね。あるとき、私が派手に仕掛けたくらいから、ライバルが増えてくる気配がしてきました。検索してみるとそっくり同じページのサイトがあるなあ。もうしばらく経って検索してみると、自分よりも上手な出来だなあ・・。何しろアフィリですから、参入障壁が超絶低いわけですよ。見たその日に真似ができる。

単純なアフィリだけでなく色々サービス化して差別化しようかなとか考えたんですが、それだと副業を超えて起業になっちゃうし、アフィリエイトよりも本来の仕事のほうが面白かったので、「判断せずズルズル放置」してましたところ、気がつけば売上は激減。月数千円くらいになりました。下がりだしてからは早かったなあ・・

・・・ということで、「アイデアがすごく、収益性も高かったんですが、だからこそ競合が増えて、参入障壁も低い&持続的競争優位を持っていなかったから、あっという間に収益が出なくなったでござる」というお話でした。残念。アフィリエイト収益ならともかく、皆さんの本業がそうなると困りますよね。。なので、そうならないためのお話をしておる次第です。

オオカミに食われない競争力を身につけるには?

では、どうすれば競争激化に耐えるのか?

Q.では、「お客さんから必然的に選ばれる」には、どうすればいいの?

A. 安定して高い価値を提供するのです・・・(あ、石は投げないでください)

「価値」を感じたお客さんはこう言います。

「似たような○○は他にもたくさんあるけど、○○ならやっぱりココだな。だって△△だから」

この穴埋めフレーズが大切です。「だって△△だから」「△△だからここで買う」

この△△の理由部分が競争力の源泉です。「選ばれる理由」「USP」「決め手」「強み」とか、色んな言い方があります。「レビュー平均が4.8だから」とかじゃないですよ。お客さんのセリフの形で表現するのが大事です。

あなたのお店では、△△には何が入りますか?
安い、スペックが良い、在庫があるから早い、primeマークがついてる、、、それもとても重要ですが(そういえばマケプレプライムの土日出荷必須化って案内出てましたね)、オオカミから身を守るためには、それ以外にも色々防壁が欲しいわけです。

じゃあどうすればいいのか。

後編:長期的に「選ばれるお店」になるには?

目指す状態と手順

目指す状態としては、「△△だから、この店で買うとよさそう」「△△だから買ってよかった」と思われることです。価値提供することです。

そのために大切になるのは「△△だから」という理由を作ること。「選ばれる理由」を作ることです。これを見極め、定義し、必要に応じて投資をしたり、メンバーみんなで磨き込んでいきます。

売上や利益は「結果」なので、それを得るための中間ゴールとしての「△△」を作るのが大切なのです。△△がある→選ばれる→売れる、という構造ですね。だから結果としての売上ではなく、必要条件としての△△に意識を向ける。当たり前ですが、焦ると忘れがちな大切なポイントです。

で、△△を作る順番は、既出ですが(1)まず領域を決めて専門特化して、(2)次に「その領域内でのサービスを強化する」と考えています。これらによって「エージェント化」ができます(後述)。

Step1 「専門特化」

昔、「ECサイトは商品数が多いほうが強い」なんて時代もありましたが、201x年において、商品数の多さ・ロングテール追求という鉱脈は掘り尽くされ、Amazonによってメガショップ路線は既に完成されています。

それに対抗しうるECサイトは、「戦略に沿ってテーマを適切に『絞り』、オペレーションや機能やブランドなどの『何か』によって、『お客さんの買い物体験を支援する』」必要があると思います。

絞ることへの抵抗もあると思いますが、以下、「絞ったほうがいい理由」を列挙していきます。

理由1:専門化の成功例が割と多いから

いまは、専門化したほうが強いです。

「そんなに品揃えを絞ったら、売り上げが下がるんじゃないか?」いやいやそうでもありません。

昔は品揃え重視の時代でした。「メーカー各社のカタログを片っ端からデジタル化して商品登録して品揃えを増やして売り上げが伸びた」という事例は、2000年代には多くありましたが2010年代では品揃えを絞って売り上げが伸びたと言うケースのほうがよく聞きました

構造的に、昔は「ネット上の商品が少なく、比較対象がないので、効率的に沢山商品登録した者が勝つ」時代だったのが、ECの浸透を経て「なんでもネット上に商品登録されていて当たり前なので、単に登録しても埋もれるので、比較優位にならないと売れない」時代へのシフトかなと。状況が変わればセオリーが変わるわけです。ジャンルによるし、一概には言えませんが。

絞って売れた成功事例としては、、

  • 客層特化で成功
    • 「どっちかというと男性客が多い○○用品を扱うお店」が「女性専門の○○用品店」にしました。女性ユーザの支持を集め、比較優位になり、売上は倍増しました。
  • カテゴリ特化で成功
    • 本業が問屋さんで、品揃えがたくさんあるお店が、思い切って特定商品カテゴリだけの専門店にしぼりこみました。当該ユーザにとって選びやすいので、比較優位になり、売上は激増しました。
  • 客層・カテゴリの「拡大」で失敗
    • とあるニッチ市場で1位を抑えていた会社が「ウチの市場では成長の限界だ!もっと広い市場へ出なければ」と進出したらうまく行かない。その間に本来の領域での競合が増えた。撤収したり半端に広がったままだったり。

こういう事例が、1つ2つではなく沢山あります。

なぜ絞ると上手くいくんでしょうね。後述しますが、多分いくつか挙げると、たとえば「むしろ品数の多さが、お客さんからするとノイズになる」場合があります。あと記憶されにくい=純粋想起にならない。Google検索で不利。回転率下がる。オペレーション煩雑。付帯業務多い。などなどなどなど。沢山あります。

※「純粋想起」という概念をご存じない方は以前の記事をご覧ください。純粋想起が取れると有利になるのが商売の原理です。

ただし、単純に「品揃えを減らせば売れる」と言う短絡理解をしないでくださいね。

前述の通り、品数を絞ることによる「お客さんにとってのノイズを減らす」「絞ることでオペレーション簡略化」といった、因果関係を踏まえた構造的理解が大切です。面倒ですが、構造が頭に入る=判断力が上がる。

理由2:そもそも中小ECは構造的に「ニッチが強い」から

ECではニッチが強い。構造的に「リアルショップではありえない位にニッチなお店」が強くなります。

例えば「カメレオン用品の専門店」があるとします。実店舗だと周囲にカメレオンを買っている人がいないので成り立ちませんが、ECなら「カメレオンの専門店てなかなかないよね!」と言いながら全国からお客さんが集まってきます。

「実店舗が近所にないからこそネットで検索してお客さんが流れてくる」わけです。カメレオン仲間での口コミも発生しやすいでしょう。

市場規模としてカメレオン用品は小さいでしょうが、小さい市場ならシェアが取れる。シェアが取れれば引力が発生する。お客さんに愛されて自然と売れていくと思いませんか。逆に、一般的なペット用品の場合は、全く競合が強すぎて埋もれるわけですね。なので、「とにかく規模拡大」を目的とせず、「適正規模で幸せに売る」ことが目的とするならば、ニッチポジションが良いと思います。

※「引力」の概念をご存じない方は以前の記事をご覧ください。

「目先の売上の一つ先」あるいは「一つ手前」を見た考え方なんです。

理由3:専門化すると大手と棲み分けられるから

Amazon など大手総合型 EC の持つ「ワンストップ性(ここで買えば何でも揃って一回で届く)」は強力な利便性ですね。
一方「専門特化したサービス強化」の本質は、ワンストップと言う利便性とは別種の、「専門領域に特化した店舗ならではの利便性」です。

「ノンジャンルの品揃え」は Amazon等に勝てないので、「品揃えを狭める」ことによって、お客さんからすると「ノイズ(無関係の商品)がない」という利便性を作ることができます。

たとえば、スーパーマーケットはワンストップで色々買えますが、その隣に「尖った魚屋さん」があるイメージです。専門特化しているから品質が圧倒的で、アプリで事前にオーダーできたり、捌いてくれたりします(この店は実在します)。

たとえば、お客さんが何か節目のイベントで感動的なギフトを送りたいと思ったとき、あらゆるギフトが揃う総合ギフトショップよりも、「泣けるギフト専門店:泣けなかったら返金」といった訴求の方が、その人にとっては刺さります(この店は実在しませんw)。

△△が必要なときは、特化型の店にいくわけです。「特定の用途に限っては比較優位になる」という立ち位置。そのようにしてワンストップ型の大手と棲み分けるイメージですね。

当然対象客層は少なくなりますが、特化しているからこそ、該当者にとっては「この店は最高・まさに探していた」になるわけです。「純粋想起」にもつながります

「品揃えが多い」のは「部外者の客観視点」では一見価値があるっぽいですが、実は「お客さんの主観視点」では、「自分の都合から外れた品揃え」は、強みどころか、ノイズに過ぎないわけです!これは品揃えだけでなくサービスにも言えますね。不要なサービスが色々あるのはノイズです。最近のお客さんはノイズにうるさいですしね。

これ、まさに前回紹介した「主観的価値と客観的価値の違い」に由来する話です。この概念は超重要。「品数が少ないことに主観的価値がある」のも、前回のクラフト消費を解説した記事における「何もない・不便と言う主観的価値がある」と同じですね。

※まだ読んでない方、メーカーECじゃなくても必読なので是非どうぞ。

客観的に見て規模が大きいほうが強そうですが、主観的に見ると、大きいから買うわけじゃない。規模と競争力は別物です。規模が多ければ競争力があるわけではないんです。主観的には「規模が小さいからこそちょうどいい」場合だってありえます。

理由4:専門化すると業務プロセスが強くなるから

商品管理やCSやバックヤードなど、業務プロセス観点でも、専門特化した方が強くなります。
表からは見えづらいことですが、競争力のある強い店には、その店を象徴するような、特徴的で強力な業務プロセスがありますよね。

名入れ系プロセスや設備に長けた店、「業務用サイズそのまま箱売り」のプロセスや設備に長けた店、セミオーダーに長けた店、専門知識を使った対応に長けた店、ハイタッチで人間関係を作ることに長けた店、鮮烈な写真の撮影とSNS運用に長けた店、ミシン作業を担う近所のスタッフの募集・育成・関係づくりに長けた店、などなどなど。

プロセスを磨き込み、そこに投資をし続け、磨き込む

そのためには、他の何かを諦める必要があります。例えば「業務用の大ロットパッケージを開梱せずそのままお客さんに届ける方式」の物流を磨き込んだ場合、品揃えの展開は狭まります。同梱物によるコミュニケーションという選択肢は消えます。でもその代わり、強みや可能性も見えてきます。もしかしたら出荷までのリードタイムが早まったり、少人数で土日出荷できるようになったりするかも。

理由5:「成長市場では専門化が必須」だから

既にウチは専門特化してるよ!という方に向けた話。もっと専門化すべき、かもしれません。

拡大する市場においては、市場規模が広がるとともに、参入プレイヤーが増加します。なので、いま超成長しているEC市場ですから、もしかしたら、可能性として、「もっと絞らないといけないかもしれません」。

拡大する市場において従来と同じポジショニングだと、強みが引き延ばされて薄くなってしまうからです。

たとえば大昔のECで、FrancFrancみたいな品ぞろえの人気店がありましたが、FrancFrancなどが実際にガンガンECをやりはじめると、一般的には本家と比べると不利ですね。そうなると、何かに専門化したりズラしたりして、正面衝突しないようにするわけですね。

イメージとしてはこんな変遷ですね(単純化して表現してます)。

  • 特定ジャンル専門店 → 特定サブジャンルの専門店 → ○○という特徴のある特定サブジャンルの専門店

もしかしたら、ECの参入激増で、「成長市場ではさらなる専門化が必要」という原則が強く作用するかもしれません。あくまでひとつの可能性ですから頭の片隅においてください。

あと、「時代の変化とともに、有効な訴求は変化する」という原則もあるので、気になる方は関連記事をどうぞ。

理由6:提案販売がやりやすくなるから

専門化すると「特定のお客さんにとって買いやすくし、それ以外のお客さんのことは気にしない」スタンスになるので、webページの作り方などが色々と変わってきます。わかりやすくなり、提案力が発揮できるようになります。この話は後述します。

Step2 「エージェント化」

自分の店に「存在意義」はあるか?

バルミューダのスチームトースターって知ってますか。普通のトースターは2000円で変えますが、バルミューダのスチームトースターは2万円します。

で、これを欲しいと思ったお客さんはそれが手に入るならどこの店だろうが関係ないですよね。なるべく安く早く買おうとします。

メーカーには普通のトースターの10倍の金を払うのに、ネットショップに対しては「なるべく払いたくない」
当たり前ですが、ちょっと悲しくないですか?

売上も大事ですが、「この店を通して購入してよかった」と思える状態に少しでも近づけないのかな。と私は考えます。もうちょっと、記憶して欲しい。信頼してもらって、メルマガとかSNS見てもらって、提案を聞いてもらえる関係になりたい。

が、まあ商品によってはStep1専門化だけで十分かもしれませんから、以下の話は自分に向いてそうだな、と思ったらご検討ください。

「単純物販型EC」と「エージェント型EC」

ところで、ここで用語を定義します。「単純物販型EC」と「エージェント型EC」という2種類がある、と思ってください。

トースター売るだけの店は単純物販です。エージェント性を持つ店は、たとえば以下のような提案をかましてきます。

他メーカーのスチームトースターと食べ比べてみました。味が違うんです。実食テスト結果とスタッフイチオシのトースター一覧はこちら 

他にも「誰できる簡単な提案販売」は以下の記事に参考事例があるのでどうぞ。※全然2021年な感じではないですが

単純物販は、モノを売って終わりです。

エージェント型は、「買い物を手伝うサービス」、「提案販売」だけではなく「○○用品を売るなら、○○用品を通じた□□の成功」を応援するイメージです。たとえばキッチン用品の販売を通して料理の時短化を応援するとか。少しサービス業に近づきますかね。パターンは後述します。

一歩踏み込んでエージェント化していけば、存在意義が強まるように思います。「売る以外のプラスアルファ」を持つことで、「選ばれる必然性」が高まるはず

最初の方に書いたとおり、小規模小売店の存在意義のうち、「当該エリアに小さく在庫を置く役割」はECにおいては関係ないので、語義通りの「お客さん1人1人に向き合って販売する」ことが残された意義で、つまりそれはエージェント化だなと思った次第。

エージェント型ECとは「ドラえもん」である

雑談。これは四次元ポケットとドラえもんの関係です。

  • 単純物販型ECは、四次元ポケットだけのサービスです。
    • 「ポケットの中に手を突っ込んで、自分で探してどれでも好きなものを持って行ってください」
  • エージェント型ECは、四次元ポケットに、ドラエもんが付属しています。
    • 「空を自由に飛びたいな」と思いながら店を見て「無事タケコプターが見つけられる」のが、最低限の接客です。
    • できれば「空を自由に飛びたい」というリクエストに対して、幾つかの選択肢を提示したいところです。遠くに行きたいのであればどこでもドアの方がいいし、鳥になりたいのであれば羽根をつけて空を飛ぶ道具があるし、学校に遅刻しそうならまた別の方法があるでしょう。

このようにお客さんの需要に対して「○○ならコレ、○○ならコレ」といった案内ができることが必要で、技術の進化を使って、エージェント力をさらに強めていくのが、これからの仕入れ型ECのあり様かなーと思います。
ただ原理的には昔から言ってる話で、昔の楽天が「ネットショップは自動販売機ではない」といってた真意もここにあります。

※「四次元ポケット(物販)のないドラえもん」は単なるブロガーとかYoutuberなので、普通の通販業務の地道なパワーアップも勿論重要です。

タイプ別のエージェント色々

私の見聞きした成功パターンを「タイプ別」で紹介
皆さん、どれか参考にできるものはありますか?

自分はこれが向いているかなと思えるタイプを選んで、アンテナを立てていただければと思います。

機能型エージェント

「単なるカートボタンだけでは解決できないEC」がありますよね。問い合わせたり、写真を送って添えてもらったり、文字入れしてもらったり、柄を選んでパターンオーダーとかとか。

これ、機能が重要ですよね。でも、ECモールが提供するショップ機能は、汎用的なものなので「一般的なカートボタンで購入するタイプ」の商品に合わせて設計されていますよね。だから、そこに不便・不快・不安があります。つまり、中小が食い込める。

普通の購入プロセスでは不便なところを、特化した購入プロセスを設計して差別化します。本店の「カスタマイズ可能でプラグイン豊富なカート」が相性良さそうですね。キャッチコピーを書くなら「これまでの○○は不便でしたよね。そこで私達が○○します。これからはもう○○しなくていいんです!」的な。

購入プロセスだけではなく「店とのやり取りの履歴が見やすい」とか、ギフトのお花で「これを送りましたよ」って写真で報告するあの古典的なやり方も、このタイプに属しますね。たとえば、飲んだことがあるワインが、履歴で綺麗になってスマホ画面で閲覧できたら楽しいですよね。

お客さんの不快に敏感になる事と、その解決策(ex.技術)に詳しくなる・・もしくは技術に詳しい人を巻き込むことで実現に近づくかなと。

客層特化型エージェント

さっき○○用品を女性客に特化して販売し・・という事例を書きましたが、、本当はもっと絞った方が良いです。
コツとしては「(物販的に)尊重されていない人たちを尊重する」ことです。このタイプも本当に事例が多いです。

例えば、小麦粉アレルギーの親子は大変ですよね。彼らの悩みの本質は「小麦粉が食べられない」ことではなく「みんなと同じようなケーキが食べられない」ことだったりします。「米粉の販売をする」だけではなく「この悩みに寄り添う」ことが大切です。

例えば、「すごく扱いの難しいスポーツ用品」があるとして、どのスポーツ用品サイトもその商品を丁寧に扱ってくれなかったところを、「その店が専門特化して丁寧に販売した」等。当然店としては、その「スポーツに取り組むアスリートの熱意」に寄り添い、取り組みを応援します。

例えば、人数の多くない体型や体質の人たちで、大手のメーカーからは重視されてこなかった。軽視されている。「着たい服が着れない・疎外されている」ようなセルフイメージがある。この悩みに寄り添うことが大切です。

例えば、「以前から色んなメーカーが商品を販売しているけど、なんか違う。潜在的に違和感がある」というジャンルがあるとします。お客さんの内面は「どうも彼らは仕事として・売上のためにやっている感じで、私たちが何をしたいかをよくわかっていない」。この違和感を言語化・ビジュアル化・顕在化しつつ寄り添うことが大切です。

マイノリティを応援してくれる存在。
当事者からすると、好きにならないはずがない。

まあ、これらを「売上アップ施策」として取り組むのは、違和感がありますよね。会社全体に軸を通す必要があります。当然 CS やコンテンツも大切になりますね。採用や育成も大切です。

大変さもあるでしょうが「店としてのありかたを明確に打ち出せて、従業員もお客さんもそこに共感した人が集まってくる」ので、ある一線を超えたらマネジメントはスムーズなんじゃないかなと思います。お客さんとの対話や参加型のイベントをやりやすい特徴もありますね。

この分野に興味がある人は、ぜひ映画「キンキーブーツ」を見てください。正しくエージェントとして振舞うために、大切なシーンがあります。

ただ、「四次元ポケットのないドラえもん」がただの猫型ロボットなのと同じように、こっちのタイプでも物販の本来業務をきっちりやることは大前提だと思います。

最後に

まあでも、絞るのって怖いですよねー。

ECコンサル屋という仕事柄、私はこういった「思い切った専門特化」や「強みへの大規模投資」を決断された方から話を伺う機会がたまにあります。

私なんぞが上から目線で「勇気を持って乗り越えなさい」等と言える話では到底ありません。こんな決断エピソードを伺うときには、私はただただ尊敬の念を持ちます。

エージェント型にシフトした皆さんは、リスクや「勇気」とどう向き合ってるのでしょうか

お話を伺うと、どうも「清水の舞台から飛び降りる勇気」ではなく「清水の舞台から飛び降りるリスク」を観察して洗い出して整理して、「洗い出されたリスクに対して回避策を考える」というスタンスで検討しておられるように見えますね。なるべくリスクを消しながら最後は勇気と決断!という感じでしょうか。

絞る判断基準は色々でしょうが、単に今売れている商品から考えるのではなく、手持ちの強力な業務プロセスや、組織能力(※)を基点にして、どういう分野に専門特化するか考えたりもします。例えば高額品の電話接客販売が得意なら、多少商品が違っても強みは転用できますよね。※社内文化や人材を含めた組織全体の強み。ケイパビリティとも言います。

決断したとある社長さん曰く、「決断しないでズルズル出費するのではなく、状況を見極め、方針を絞って、戦略的な投資をする。そうしないと成果は出ない。この決断をするのが社長の仕事。」という話を伺って、坂本は耳が痛すぎて爆発しました。

いやーまったくですね。。学生のモラトリアム気分と似ているかも。自分が何者であるか決めることは、選択肢を狭めますね。でも、狭めないと実現しないわけですねー。。

怖いので、振り切らない人のほうが多いはず。だから、決断する人・・希望的観測でなく現実的に考え、大事な論点を後回しにせず、勇気を持って決断をする人は、「その時の決断が仮に間違っていたとしても」、その仕事への取り組み姿勢からいって、「中長期的には必ず報われる」ように思いますね。

この記事が、決断を必要としている方、どなたか1人にでも届けば嬉しく思います。

P.S.

長い記事ですいませんでした!長くなったから全4回にしたのに・・また長くなった・・。すいません。。普段クライアントには要約しましょうとか言ってるのにw

こういう濃いやつは本来ならコンサル契約をした方に個別で提案する話ですが、この先の仕入れ型ECで心配なことがあって長々と書いてしまいました。

ちなみに、この記事の中には「時代状況」「中長期的な戦略」「投資判断」「業務プロセス」「採用と組織体制」「一般的な販促」「コンテンツ」「カートシステム選択」などの全要素が入っていることにお気づきでしょうか。

私たちは中小規模のEC経営における全領域にわたり、一緒になって考える「相談相手」という仕事をしています。「いろんな人からいろんな意見をもらうけど、本当は『自分の考えを整理する壁打ち相手がほしい』をしてほしい」という方はぜひ弊社コンサルティングをご検討ください。

カテゴリー: ECの未来, EC戦略論, 判断力と実行力

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