こんにちは。坂本です。
今回は、中小のEC事業者に向けた「簡単な戦略論」の紹介です。
小さな会社には、小さな会社ならではの戦略があると思うんですね。
ひとことで言うと、「小さな会社は小さな客層を狙え」。この記事では、なぜ、中小が「小さな客層を狙うべきなのか」「小さな客層とは何なのか」について紹介をしていきます。
「ある程度の売上は作ったけど、ライバルは多いし、うちに特徴はないし、参入も増えてくるからこの先どうしようかなあ」と思っている方におすすめです。
- 目次 -
大手と中小の違い
小さな会社には、小さな会社ならではの戦略がある。
ひとことで言うと、「小さな会社は小さな客層を狙え」。
- 大きな客層とは「多くの人が求めている需要」です。
- 「コスパが良くてベーシックで機能的な□□」みたいな。
- ユニクロとかニトリとか大手が強い世界ですね。
- 小さな客層とは「一部の人しか求めていない、ニッチな需要」です。
- 「コスパはそんなに良くないけど、○○で△△的な□□」。
- 市場が小さいから、大手は少ない世界です。
大手は、「体が大きい=最低限必要な利益が大きい」ので、大きい市場でないと生きていけないんです。小さな会社は、「体が小さい=最低限必要な利益が小さい」ので、小さい市場でもやっていけます。
詳しくは後述します。
大手が苦手なこと
むかし、私は、とあるEC勉強会に講演しに行きました。
その時は大手のメーカーの方がたくさん来ていて、名刺交換しながらいろんな雑談をしました。その中で、大手の方々から言われて印象深かったのは、
Aさん「中小のECはいいよね。それぞれ個性があって面白そう」
坂本 「大手ではやれないんですか?」
Aさん「まあ、まず社内で稟議が通らない。面白そうだしやってみたいなあとは思うけど、うちでは難しいなあ」
Bさん「うちでは経営陣が若返ったので最近だいぶん変わってきたけど、それでも難しいかも」
というお話がありました。難しい理由は以下の通り。
- 企業規模が大きい=固定費が高いと、稼ぐノルマも大きいので、構造的に「小さくて尖ってる」ことをしづらい
- 企画を上げて実現するまでに、チェックする人が何人も存在して、門番のようにダメ出ししてくるので、最終ゴールまで辿り着かずに、沢山のアイディアが全滅してしまう。
- 従来型の商売では、コンビニやスーパーの棚に商品を並べ、多くの人に買ってもらう必要があった。つまり大手は「コスパの良い商品を沢山流通させる」パワー戦術のために「体が大きくなった」。
体が大きくなると、パワーゲームには強い。「パワーで勝つために体を大きくした」のが大手です。
しかし、体が大きくなると、稼がなければいけない金額が大きくなります。彼ら大手は「激戦区で勝って稼がねばならない」という宿命を背負います。勝ち進むと、最終的には、世界の大企業と戦うことになります。まさに修羅の道。
中小が得意なこと
お相撲さんが体を大きくするのは、競技特性上、大きいほうが有利だからですよね。古い会社の規模が大きいのも、「コスパの良い商品を生産し流通させるという事業特性」のために大きくなった。
でも、お相撲さんが長距離走に不向きなように、何かを磨くと、何かが鈍ります。
たとえば大手は、尖った商品を一部の客層に売っていくということが、そもそも不向きなわけです。尖った商品を少量生産して直販するならば、そもそも「大企業になる必然性がない」わけです。
ということで、大手は大手に相応しい、大手が向いたフィールドがあるし、我々中小にも、中小に向いたフィールドがある。これは優劣ではなく、特性の違いです。
たとえば大手は、個性的な商売がやりづらく、中小の方が「変な企画」をやりやすい特性があります。
あるいは、大手は「普通の商品を効率的に販売するオペレーション」を磨きますが、変な中小は「変なことに専門特化したオペレーション」を構築します。
※企画商品の多い某社では「ダジャレを考えるオペレーション」の遅さが課題になりました(ダジャレが思いつかない問題)。その後、とあるイノベーションによりダジャレ問題が解決し、開発スピードが向上しました。
「大は小を兼ねる」ということわざがありますが、こと商売においては「杓子は耳かきにならず」という側面もありますね。つまり、大きいものが小さいものを兼ねられるとは限らない。中小は尖った場所のほうが生き延びやすいので、そこを狙っていきましょう。
小さな会社が「大手を真似る」と死ぬ
なのに、ああそれなのに、中小が大手の真似をして失敗する、ことが多発しているように思います。
- 良い商売をしたい
- 良い商売の理想は、大手だ
- 少しでも大手っぽいことをすると、良い商売に近づける
- まずは大きな市場を目指そう
我々がECコンサルしてても「うちみたいなニッチ市場はすぐに天井が来る(市場規模が小さいから成長限界が早い)から、もっと大きい市場に進出しないと!」というお話をたまに聞きます。
でも・・うーん失敗するほうが多いかな。。
まあ、本当に天井に来ちゃってる(成長限界が来ている)お店もありますけど。経験上、ニッチ市場の成長余力は思ったより大きいんです。焼き魚はひっくり返すと食べられる箇所がありますよね。ああいう感じです。ECの場合、ニッチ市場の成長余地って、思ったより大きいんじゃないかなー。※コツは「ニッチを拡大解釈」することです。
そして、隣の花は赤いように見えますが、血みどろ競争のレッドオーシャンかもしれません。参入してみると余りの激戦で、撤退して、諦めてニッチを一生懸命売って、すると思ったよりもニッチが伸びたりします。色々事例があります。
「ニッチだけど新規開拓がうまくいく」人は、焼き魚(=既存のフィールド)を丁寧に食べます。表も裏も、骨までしゃぶりつくしつつ、慎重に次の魚に手を伸ばしておられるように思います。逆に「食べかけをほったらかして手をのばす」と失敗するかも。
ECでは、大きな市場でランキング100位の事業者として参入するよりも、小さい市場で「その小さい市場の中では有名なお店」を目指す方がいいと思います。云わば、100メートル走で金メダルを獲るのではなく、十種競技とか競歩とか比較的選手層の少ない競争の比較的緩やかな所で金メダルを狙う方が、実現可能性が高い。
専門特化戦略といいます。以前の記事に詳しく書いたので良かったらお読み下さい。
あ、ビジネス本が好きな人も要注意かも。「Googleに学ぶ○○」「Amazonに学ぶ○○」みたいな本がありますけど、我々はGoogleでもAmazonでもないですからね。本は本で話半分にしとかないとなーと思います。ビジネス本好きとしては割と反省するところであります。成長の種は「まだ本になってない発見」にあるんじゃないかなと。
「小さな客層・小さな市場」とは?
ここまでは、中小事業者は小さな客層・小さな市場を目指そう!というお話でした。
ここからは「小さい市場・小さい客層とは何か」の紹介です。「需要の多様性」という概念がポイントです。
人間は、それぞれ見えている世界が違う
以前、私は「人間は同じような見た目でも、結構個性にばらつきがあるよね」という記事を書きました。
この記事では、「なぜ人間という生き物は、個性にばらつきがあるのか」という話を、生物の種の保存の意味合いで解説したものでした。
例えば「コロナの感染」という同じ出来事を見た時でも、
- 全く気にしない人
- ものすごく怖くなって、慎重になる人
- 面白がって、分析する人
- 人の辛さに共感して、心が痛むという人
というふうに、人によって反応にバラツキありますよね。
上記の記事では、組織論的な意味合いで紹介しましたけど、そのような「個性のばらつき」が「消費行動のばらつき」にも成り得ると思います。
「コスパ以外」の比較軸こそが大切
古典的な考え方では、「コスト・パフォーマンス」という言葉がありますね。
市場に併設されたお店の、海鮮丼があるとします。早朝限定。市場の中の人しか食べないような、知る人ぞ知る一品。豪快な盛り付け。特盛で爆安。まだ薄暗い早朝、市場の喧騒の中、カウンターで食べます。
- 値段が安く、ボリュームがあるので、「経済的でコスパが高い」ので人気。
- おしゃれではない。「君の誕生日に、いい店を予約してあるんだ」って朝6時に海鮮丼食べませんね。
- でも、早朝海鮮丼デートは、お互いの合意のもとであれば楽しい体験でしょうね。
このお店に観光客を集めたいとします。何をアピールしますか?コスパですか?むしろ、コスパは二の次ですね。安さも使いますけど、非日常性を強く打ち出したほうがお客さんが集まりそう。
よく言われるように、もはや安くて美味いは当たり前。いい物を手に入れることも簡単な現代の状況において、コストパフォーマンス的なとらえ方で消費を見ていくと、結局、大手には絶対に勝てないんじゃないかなあと思います。
グルメよりも「空腹」に価値がある
例えば、山に登って頂上で食べる弁当は、おいしいですよね。それは、弁当そのものの美味しさよりも、山登りという体験プロセスの影響です。
物を手に入れる楽しさは、その物それ自体からもたらされる楽しさもあるけれど、根っこは、「ほしいと思う気持ち」「好きと思う気持ち」こそが、満足感や楽しさを産んでると思うんです。
だから、コスト・パフォーマンスという面では、決してよくない。むしろ、「非合理的なことに、あえて突っ込んでる自分」をどこか楽しんでる。
例えば、こちらの記事のような「推し消費」の場合。
推しのグッズを買うお客さんは、「全部買うしかない。それ以外の選択肢はない」と断言したりしますよね。「他の人は必ずしもそう思わない」ことを重々承知の上で、あえてそこを押さえず、自分の「好き」を爆発させることによって、気持ちよくなれるということがあるのかなと思います。
言い換えると、コスト・パフォーマンスに距離をとろうとしている。「コスパを無視した方が楽しい」と分かっていて、わざとコスパから距離をとろうとしてるんです。それが楽しい。わざと酔っぱらってるような感じというか。そのような心理がどこかあるのかなと思います。
だから、賢く冷静な消費ではなく、熱狂する消費。損得でいうと、経済的には損かもしれないけど、「あえてそこをわざとやるんだ」という、そういうスタンスでの消費です。
これもまた人間の非合理性で、我々が目指すべき商売というのは、こういった要素が少なからず入ってくるように思います。なぜなら、合理的で賢い消費は、大手の得意分野だからです。
※あ、熱狂だけではなく「知られざるニッチな悩みの対策商品」も意味としては同じです。世の中には、一部の人しか持っていない、一部の人しか気づかない、絶妙なニーズがあるものです。普通そんなこと気にしないだろう、ということをすごく気にする人がいて、そういう人に向けた商品とか。まさに非合理性。
ニッチなお客さんに出会いやすいのがインターネット
坂本のセミナーでよく言う話ですけど、坂本の地元の高知県高知市で、「カメレオンを飼っている人の為の、カメレオングッズの専門店」をオープンしたとしても、近所にお客さんはあまりいないと思うんですね。だから、ビジネスとして成立しにくいと思います。
でも、もしもECサイトを開設したとしたら?Twitterやインスタ・TikTok などで情報発信し、カメレオンにはまってる人がたくさん集まるようになると、むしろそういうお店の方が、ECは上手くいく雰囲気がありますよね。
このように、全国のわずかなカメレオン愛好家の人が、日頃、周りの人に理解されないこそ燃え上がるという、そういう心理があると思うんです。
世の中の多くの人とは違う、自分の中にある特殊な需要を満たしてくれる存在は、その市場が狭いからこそ、シェアも上がりやすいですし、出会えた時の感動も大きいはず。
そういう訳で、消費行動としては非合理的ですけど、そのようなニッチな需要、ニッチなお客さんを狙っていくというのは、商売としては非常に合理的な売り方なんじゃないかなあとすごく思います。
好きとか偏愛の方のポジティブな需要だけでなく、逆に、あまり他の人に理解してもらえない悩み、身体の悩みとかアレルギーとか、そういった困り事に関しても、このような構造は成り立ちます。
アレルギーで食べられない物が多い子供や、大人の為のお店というのは、そのような悩みを持ってる人にとっては本当に救世主的な存在で、お客さんの強い支持が得られます。尖っていて客層が狭い商売ほど、フィットするお客さんの人数は少ないけれど、その少ない人の心の中には深く刺さるという所があります。
「多様なお店」×「多様なお客さん」=豊かさ
「便利な時代」から「豊かな時代」へ
「すぐほしいものが見つかって、安く便利に日用品が届く」ということは、社会インフラとして非常に価値があります。しかし、それだけでは便利であっても豊かではないです。便利なだけがECではない。中小ECは、便利さではなく豊かさを担う存在として、この辺りを掘り下げていけるといいかなあと思っています。
- 安くて早いは「便利」です。
- でも、便利なだけではない「変な選択肢」も選べるのが「豊かさ」です。
そして、
- 今、ECの浸透とともに「便利なEC」の価値はピークアウトしつつあります。
- 次に、豊かなECの時代が到来しつつあります。中小ECがその主役になるはずです。
中小ECが「豊かさ」を担う存在に
それぞれ個性のある多様なお店が、それぞれ個性のある多様なお客さんの需要に寄り添えるといいなあと。
実際、全国にいる私達のクライアントさんでも、こういったことをテーマにして、すごく成長してるお店もいらっしゃいます。消費行動としては非合理的でも、商売としては合理的ですし、十分勝ち目を持って臨んでいける領域だと感じます。
私達は、中小EC専門のコンサルティング会社として、ネットショップ事業者のみなさんが、一人一人違うお客さんを満足させていく、「豊かな体験のできるEC業界」を目指しています。ですので、これからも「多様なお店の多様なあり方」を支援していきたいと考えています。
売上や利益の話だけでなく、いま抱えている悩み、漠然とした将来の不安など、幅広いテーマでEC事業者の皆さんをサポートしています。詳しいサービス内容はこちらをご覧ください。
PS
私達コマースデザインは中小EC事業者の「売上アップだけではなく」経営全般を支援する会社です。「そもそも何で中小ECに特化しているんだろうなあ」と自分で考えてみると、やっぱり会社の規模が小さく小回りがきいて話が早いし、話が早いからやってて楽しいし、変化や成長が起こるのも早いからです。
大手の支援をやることもたまにありますが、やっぱり社内の都合とか規模が大きすぎてなかなかすぐの変化はおこらないので、我々としては指導力のある個性的なEC事業者を支援するということがメインテーマだなと思っています。
カテゴリー: ECの未来