こんにちは。コマースデザイン代表の坂本です。
今回のテーマは「仕入れ型ECにおける、商品開拓の考え方」について。
これを読んでいただくと、「仕入れ型ECの生き方」について理解が深まります。
私としては、『狩猟型の考え方』と『農耕型の考え方』という、2パターンの考え方があると思っています。
これを理解すると、自分の現状を客観視したり、他店舗の動き方を洞察できるようになります。ぜひ「自分はどんなタイプなのか?」を考えながら、読み進めていってください。
- 目次 -
はじめに
人類史における「狩りから稲作」へ
人類の歴史を振り返ると、最初は狩猟型で始まり、多くの社会が、農耕型社会に移行していきました。
これを日本史の教科書では、「狩りから稲作へ」と表現していましたね。狩猟採集中心の縄文時代を経て、稲作が浸透して弥生時代となり、定住生活になって文明の発展が始まる…という流れです。(※)
なぜそんな話をしたかと言うと、色々な方とネットショップの商品企画・商品開発について話す中で、「商品開拓にも、狩猟型と農耕型がある」と気づいたからです。
※実際は縄文時代でも定住してましたし、高度な文化があったと思いますから、これはあくまでも例え話です。ちなみに縄文といえば長野県の縄文博物館が面白かったので縄文土器が好きな方は是非どうぞ。
ECにおける「狩りから稲作へ」
まず、『狩猟型』は、自分の専門領域を決めず、「どういうモノが売れるかな?」と幅広い市場をぐるぐる観察して、「ここなら参入できそう」という所を見つけて立ち上げるやり方です。
一方で『農耕型』は、「自分の専門はここ」「うちのお客さんはここだ」と決めた上で掘り下げていき、自分の専門領域に限って広げていく、というやり方になります。
前提として、狩猟型の人は「基盤」を持っていません。味噌屋さんは味噌ないし関連商品を売るし、木材加工の技術や設備があるなら木工品を売りますよね。そういった環境でECを始める「生まれながらの農耕型」な方々は「売りやすい商品が色々あるのに『コレを売るしか無い』から大変」と思うでしょうが、ゼロから起業する「狩猟型」の場合は、売る商品すらないわけですね。ゼロスタート。
このあと詳しく説明しますが、狩猟型で始まったEC起業が、立ち上げに成功すると、徐々に「農耕型」にシフトしていくことが多いようです。
- 最初は狩猟型、発展して農耕型へ
- 新しい商品を探す場合は、狩猟型から始まる。
- しばらく経つと、定住するかのように、農耕型に切り替わっていく
- もちろん「狩猟型のまま」というケースもあります
- 狩猟型に戻るパターンもあります
- 農耕型で定住していたところをライバルに削られて狩猟型になる
- 既存の市場が老朽化したから「安住の地を求めて旅立つ」
これらのプロセスを紹介して、みなさんの現状認識の参考としていただくのが、この記事の目的です。
狩猟型の考え方
では、まず狩猟型について、「こんな風に商品企画・商品開発が進むよ」という話をしていきます。
嗅覚を研ぎ澄まし、生きる道を探す
繰り返しになりますが、初期段階において、狩猟型の人は「基盤」を持っていません。なので、「何かを仕入れて売る」事を考えます。何の後ろ盾も無い中で、後発参入しても儲かる商品ってなんだろう?と考えるわけです。
いわば荒野に一人放り出されたような状態です。多くの市場において、強い先行者がいます。そこに、丸腰で突っ込んでいっても弾かれるだけです。なので、「嗅覚」が大切です。
そのように市場をぐるぐる巡回し、「どこなら参入できるかなぁ」とチェックして参入していきます。「今からの参入でも食っていける市場はどこなのか」・・それを見つける嗅覚がEC起業の条件になります。嗅覚がないと立ち上げに失敗します。EC起業を成し遂げた方々のエピソードは、いつ聞いても勉強になりますねー。
ところで最近は、Nintやmark benchなど、競合の売れ行きを分析するツールが色々ありますよね。こういうツールは、当然こういった方々に愛用されるわけです。
「今まさに狩猟型です」という方は、昔に比べて色々な分析ツールが出ているので、見比べて自分にあうツールを見つけていただけるといいでしょう。このような競合分析ツールは、AmazonやGoogle(検索対策)でもあります。「競合分析ツール」などでGoogle検索すると、色々出てくると思います。
狩猟型の人が商品企画する際は、こうした競合分析ツールを使って、「どの市場が一番参入しやすいか?」を、情報を見ながら観察していくという入り方をするケースが多いです。
売上重視だから「ノンジャンル」
このように、EC起業される方は、最初は、自分の得意なことや好きなことより、「売れるかどうか」を重視するケースが多いようです。最初は、市場を決めずにやることが多いです。中国仕入れで「このアパレルが売れそうだ」とか「この雑貨が売れそうだ」とか。
この嗅覚に長けたのが「せどり」の人たちです。せどりと言うのは、かつてブックオフの古本コーナーなどでウロウロして、Amazonで高く売れる本を探し、安く買ってAmazonで高く売る、みたいな仕事ですね。最近はやり辛くなっているでしょうし、長く続く仕事ではないと思いますけど。
が、せどり出身の人がオリジナル商品を作るようになったり、アフィリエイター出身の人がメディアを運営するようになったり、「次のステージ」に移行する、つまり、どこかのタイミングで、「定住して農耕型に切り替わる」という現象が時々起こります。ECでも同じです。
農耕型の考え方
ではここから、農耕型について見ていきましょう。
「稲作定住」の始まり
「生きられる土地」「後発参入でも食べられる市場」を求めてあちこち巡回しているうちに、「自分が暮らす領域は、ここからここまでの間だなぁ」「自分は、こういうお客さんなら分かるなあ」という馴染みの土地が生まれてきます。
これが「定住化」へのサインです。「自分の領分」への自覚や自負心が芽生える。
- 「どうやら自分はシャツの店らしい」
- 「どうやら自分はカバン屋らしい」
- 「どうやら自分は旅行用品屋らしい」
- 「どうやら自分はおもしろITガジェット屋らしい」
経験者の話を聞くと、定住する土地を選ぶときは、「商売として成立している」ことは大前提ですが、「しっくり来る」とか「なんとなく好き」という個人的な心理が作用して決まるようです。
思えば、私も一時期アフィリエイターで、資格系のアフィリでかなり稼ぎましたが、個人的に興味がなかったので、定住はできませんでした。EC支援業が楽しくて、そこに定住して今に至ります。
定住すると、狩猟型と違って「生息領域が狭まる」ので可能性が狭まるかと思いきや、ここで面白い動きが起こります。広げる代わりに「掘り下げる」行動が増えて、そこから新しい機会が生まれます。まさに「畑を掘り下げる」「耕す」という、農耕的な動きですね。
販売志向から、「お客さんの問題解決」志向へ
あちこち巡回して「売れる領域」を探していた人が、自分の住む場所を見つけて、専門家としての自覚とともに「掘り下げ」を始める。
具体的にどのような行動が始まるかと言うと、例えば、自社や他社のレビューを読み、お客さんの生態を分析するようになります。稲作であれば、コメなり麦なりの「性質」を理解する気持ちと同じでしょうね。「商材」や「顧客」を、より深く理解しようとします。
- お客さんたちは何を目的とし、何に喜び、何にがっかりしているのか?
- 悩んでいる人は、どういう原因でその悩みに陥って、何を感じているのか?
- お客さんの頭の中で何が起こっていて、どのような感情になっているのか?
例えば、寝具であれば、「安眠するにはどうしたらいいか?」「より快適な寝室とはどういうものか?」といったことを研究しますよね。ダイエット商品も、わかりやすい問題解決商品です。「どうしたらダイエットを継続できるんだろうか?」「食べ過ぎてしまうのはなぜ?」を考え始めるようになります。
こうしていつしか、「どんな商品が売れるのか?」という思考ではなく、「どうしたらダイエットを成功させてあげられるんだろう?」という、当初の「売る」という目的から少し離れて、更に深いところまで考えるようになっていきます。
そして気付けば、ダイエットに詳しい人になったり、お風呂に詳しい人になったり、寝具に詳しい人になったり、旅行に詳しい人になったり、フットサルに詳しい人になったり、ダーツに詳しい人になったり…。各分野の専門家になっていきます。
また、顧客理解を深めるだけでなく、取引や管理や顧客対応の仕組みも作り込んで、運営基盤も確立していきます。
専門家だからこそ、売れる商品がある
このような思考と研究を繰り返すうちに、いつしか専門家らしくなっていきます。まだ専門家までいかない段階だとしても、お客さんやレビューについて詳しくなっていると、それだけで自分の中にお客さんが住んだような状態になるので、商品の開拓やコピーライティング、コンテンツの作成がスムーズになります。
専門家になると、メルマガやSNSなどでの、ちょっとした発言すら魅力的になっていきます。お客さんへの説明に対して、「なるほど、参考になりました」「さすがプロですね!」と言われるようにもなってきます。
定住しているからこそ、喜ばれる商品を多く見つけることができます。こうして身についた「売れる商品に対する嗅覚」は、専門分野がなく「データに頼る」狩猟型の方よりもかなり鋭いので、「彼らが感じとれない商品開拓」ができます。
例えば、ダイエットのために、糖質ゼロでタンパク質の多い「主食」を売っているとしたら、「主食を買っている人たちに、糖質ゼロの『おやつ』もあったら喜ばれそうだなあ」なんて考えます。
このように「せどり的な狩猟民族の人」と違い、「専門家として商品を探す」ので、専門家でなければ気づけないチャンスを発見し、狩猟民族ではうまく売れない商品も売れるようになります。この段階になってくると、競合分析ツールを使うより、自分の考えで商品を広げていく、という行動の比率が高くなってきます。
これこそが、農耕型の強みです。
(ちなみに狩猟型の店は、「わからないなりに必死にor安易に模倣する」ことで対抗します)
狩猟モード・農耕モードを使い分けよう
狩猟型は原始的で、農耕型のほうが良い・・という意味ではありません。それぞれに課題があり、最適な行動が違います。自分の現状と発展段階を自覚して、そのときの必要な打ち手を取っていくことが大切です。
狩猟から農耕へ移行するには?
我々がご支援している方の中にも、狩猟段階の方がある程度いらっしゃいます。狩猟を続けながら、「どこかに定住したいなぁ」と思われているケースもあります。
定住したい場合は「自分が何屋か自覚すること」が、農耕型への切替の合図だと思います。様々な商品を扱っている中で、「これが自分らしい」「自分の掘り下げたい商品ではないだろうか」という方向性を見つけ、研究を始める。
「どうしたら商品が売れるか?」ではなく、「商品を探している、買ってくれているお客さんはどんな方なのか?」「何を感じているのか?」と言うところまで掘り下げていくと、ベテランの農耕民になれると思います。
狩猟型と農耕型を交互に繰り返す場合も
これまで平和にやっていた村にライバルが襲いかかってきたり、村が老朽化したりして、「もう、この村で畑はやれないな」ということで、旅立つケースがあります。例えば、ガラケー向けのストラップは今どうがんばっても、あまり売れないですよね。そうなったら、またデータを見ながら狩猟型で食べていくことになります。
あるいは、事業が成長して「一つ目の村は確立できたから、違う村を作ろう」という状況になることもあります。そのときも土地勘がない状態に戻るので、データを見たり、謙虚にお客さんと話をしたり、研究したりして、また村を作っていく…という流れです。
ちなみにコンサルの現場でよくあるのは「まだ食えているけど将来的にこの市場は厳しくなるかもだから、今から次の市場も開拓しておこう」というケースです。既存市場での商売を工夫して「延命」しながら、並行して新市場を「開拓」するわけですね。これは二正面作戦(一度に2つの難しい課題と向きあう=正面が2つ=大変)なので、大変ですが・・・よくあります。
いざというときは「狩猟本能」が頼りになる
既存の市場が厳しい。このままではまずい。そんなときは「狩猟型」の感覚が大変重要です。
私も昔アフィリエイターでしたが、アフィリやせどり出身者の「後ろ盾がなくても嗅覚で生きのびる」サバイバル能力は、理想論の通じない難局でこそ頼りになります。理想だけでは食えません。人類史では、狩猟を極めて世界帝国を作ったモンゴル帝国の事例もありますから、農耕のほうが有利とも限らないのです。実際、ノンジャンルの狩猟民なのに強烈に強いチンギスハンみたいなお店もありますねw
ただまあ、人生は長いので「毎日がサバイバル」だと疲れるばかりです。社長は良くてもスタッフ側は疲れます。農耕型のほうが安定はするんですよね。そして「人はパンのみに生きるにあらず」。つまり、ご飯を食べるためだけに仕事をしているわけではない。農耕型は「事業の存在意義」を自覚しやすいので、それが支えになります。
お店や事業にある理念や理想は、運営者のやる気につながるだけでなく、採用やメディア取材にも繋がっていきます。特に、採用強化の一環で、会社としてのスタンスや理念を表現・発信するようになったら、良い人材と出会えたという事例をよく聞きます。
まとめると、狩猟型は、危機的状況を生き延びる「短距離走」に強くて、農耕型は、長く商売する「長距離走」に強い、というところでしょうか。特に「狩猟型出身で農耕型にシフトした」社長さんは強いですね。
まとめ
今回は、商品開拓や店舗運営のスタンスを、「狩猟型」「農耕型」という2つの段階に分けてご紹介しました。
自社が狩猟型と農耕型のどちらの段階にいるのかを認識して、的確な打ち手を選んでいきましょう。
農耕型は、定住を経て、顧客理解が深まって「専門家」へと成長することで、ちょっとした表現やアイデアでも、お客さんの心に響くようになります。すると、顧客理解の浅い狩猟型のお店では気づかない角度からでも売上を作ることができます。
ただ農耕型を続けていくと、ある程度の限界を迎え、「次の市場を開拓したい」という欲求が出てきたり、あるいは「ライバルに追い出されそう」とか、市場自体が老朽化してしまう可能性もあります。すると新しい市場を開拓せざるを得なくなりますから、「狩猟型と農耕型を交互に繰り返す」展開もありえます。
なので、農耕型を目指していただきたいのですが、先の見えない世の中においては狩猟型人材の逞しさも重要です。丸パクリで後発参入してきて売上にがっついているアナタの競合の「あの店」も、姿勢としては学ぶところがあるかもしれませんよ。
まとめますと、
- いま狩猟型な方は、そのままでもいいのですが、なにかピンと来るジャンルがあるなら、「定住」を検討してもいいかもしれません。考えるだけならノーリスクですから、少し研究してみては。
- いま農耕型な方は、顧客理解を深めることが参入障壁になると思います。虎視眈々と売上を狙ってくる「狩猟型の競合」は、その逞しさに対して尊敬の念を持ちつつ、顧客理解の深さで対抗しましょう。お店のスタンスも発信していきましょう。
という感じですね。
皆さんは、狩猟型と農耕型、どちらの段階でしたか?
是非この機会に、自店舗の立ち位置と「今後の方向性」を考えてみてください!
P.S.
弊社は、EC事業専門のコンサルティング会社です。
楽天市場、Yahoo!ショッピング、本店などで、EC事業のお手伝いをしています。
特徴は、短期的な販促施策だけにとどまらない「俯瞰的なEC事業支援」です。新商品の企画・開拓を始め、競合動向を踏まえて「現状がどうなっているか・短期的かつ具体的には何をすべきか・今後なにを目指すべきか」を考えたり、今後への方針提案もできます。
店舗運営にお悩みの方は、ご相談ください。我々はECの専門家として幅広い事例を把握しているので、様々なアドバイスをご提供できます。お気軽にご相談ください。
カテゴリー: 売れる商品の作り方