こんにちは。坂本です。
今回は、1月25日に開催された「楽天新春カンファレンス2024」の解説をお届けします!
「楽天出店者にとって重要なポイント」を、分かりやすくまとめて解説します。カンファレンス全体の印象としては「今後のAI活用を全力でアピールした」感じですが、「出店料の値上げ予告」や「最強配送」も重要なポイントです。それ以外は、比較的これまでの発表で出ていた話で、粛々と進んでいるという内容でした。
楽天からも別途ニュースと録画が配信されているので、イベントの全容はそちらで確認いただきつつ、この記事でまず要点を押さえるとわかりやすいので、ぜひ楽天出店者の方はご一読ください。
- 目次 -
今回の重要ポイント
今回の新春カンファレンスの大きなポイントは、以下の3つです。
- (1)楽天市場にAIが実装される
- 国内ECモールとしては初めて、具体的なAI活用方針が発表されました
- 「EC事業者の生産性UP」と「ユーザーの利便性UP」のそれぞれに活用されます
- (2)楽天出店料の値上げ
- 月額固定料金を値上げします。金額などは1ヶ月後に発表される予定
- 楽天モバイルの借金返済(社債の償還)のためかな?
- (3)「配送品質向上制度」が予定通り7月スタート
- 楽天版の「優良配送制度」が、予定通り2024年7月に開始
- 配送ラベルの名前は「最強配送」と命名されましたw
以下、詳しく説明していきます。
(1)楽天市場にAIが実装される
こちらの弊社記事で以前案内したように、AI活用は「事業者の生産性アップ」と「ユーザーの利便性アップ」のそれぞれに活用できます。今回の楽天市場でも、それぞれの活用方法が発表されました。
事業者の生産性アップ
RMSにAIが搭載されて、仕事がはかどるようになります!
- 商品説明文の自動生成
- 商品の背景画像を自動生成
- レビュー内容の分析
- CS対応がスムーズに
などなど・・まあ、弊社のChatGPTセミナーやEC研修に参加した人にとっては「知っている」「既にやっている」活用方法も多いですが、RMSに搭載されてシームレスに使えることで、GPT単体で使うより便利になるのかなと思います。
以下は具体的な内容と予定です。
- AIによる楽天市場の商品登録サポート(2024年Q1~)
- R-storefrontでの商品登録を効率化
- AIによる店舗オペレーション支援(2024年Q1~)
- 日常業務サポート :「RMS AIアシスタント β版」の提供
- 問合せ対応の業務効率化:回答文章候補の生成、問合せ内容の分析
- Rカルテ分析サポート :店舗運営状況の分析・要約、AIによるレビュー分析
- 広告クリエイティブ作成:広告レギュレーションに対応、バナーやコピーの自動生成&提案
- AIによるECCのコンサル内容強化(2024年下期予定)
- コンサルティング用ツールの強化
- AIによるECコンサルタント業務の効率化
- Rakuten AI大学(仮)
- 店舗運営者の基本的なAI学習を支援。近日リリース予定
余談ですが、最近はいろんな大手企業からAI活用事例が出てきていますね。サイバーエージェントの事例は中々興味深いので、興味がある方は見てみてください。
ユーザの利便性アップ
現在のECモールでは「キーワードを使った商品検索」が一般的ですが、たとえばYoutubeを見るときっていちいち検索しないで、レコメンドを経由することも多いですよね。AIが浸透すると、そんな感じで、商品探しの体験がちょっと変わってくるはずです。
今回のカンファレンスでも、AIと、楽天の持つ膨大な顧客データを使って、いろんな体験ができるようになりますよ・・という雰囲気が醸し出されていましたが、楽天市場での具体的な変化としては、従来の検索が少し進化して「セマンティック検索」というものが実装されました。すでに新しい仕様で動いています。
例えば「イギリスで一番有名なお茶」と検索すると、以前は「そのフレーズが説明文の中に入っている商品」がないと「該当商品ナシ」になっちゃうんですが、いまは、ちゃんと文章の意味を読み取って商品を探すので、それっぽい商品が検索結果に表示されるようになりました。(下図)
まあ、Googleでは大昔からできていることなので、目新しいものではないんですけどね。ただ、地道に進化していくんだろうなと思います。この変化が「どう浸透していくか」「どんなふうに検索結果に反映されるか」は要チェックですね。
(2)楽天出店料の値上げ
次のポイントは、料金改定の予告です。
新春カンファレンスを見ていた人と話していたら、「料金改定の話は気づかなかった!」と言っていたくらい、さりげなく発表されていました。値上げが公表されたのは、戦略共有会です。
システム開発の方針として「たくさん投資していきます」という話があったすぐ後で、以下のように発表されました。(以下はスライドの抜粋)
■より一層店舗さんが輝ける「楽天市場」の構築発展に向けて さらなる店舗運営支援、ユーザビリティの強化、外部環境の変化への対応を行い、 持続的な成長を実現するため、出店プラン(月額出店料部分)を一部変更させていただきます。←ここ ・さらなるシステム投資 ・外部環境の変化(物価高)への対応 ・AIなどイノベーションへの適応 店舗さんとともに成長し続ける「楽天市場」へ
スライドに差し込まれた、さりげない一行。
「一部変更 ≒ 値上げ」ですね。
月額出店料がどれくらい上がるのか、金額や時期は発表されておらず、「詳細は1ヶ月後ぐらいに発表する」とのことでした。続報に要注目。
おそらく月額何万円かの増加じゃないかなと思います。ある程度売れているお店はマージンを沢山払っているので、固定料金の値上げは比較的受け入れやすいかと思いますが・・・売れてなくて小規模なお店にとっては重いですね。零細規模の店舗からは、楽天をやめちゃうお店も増えそう。
値上げの背景は楽天モバイル?
値上げの背景はなんでしょうか。楽天モバイルの資金調達のために、楽天は社債をたくさん発行しており、この2年で8000億円ぐらい返さなきゃいけないんです。そのために、いろんな所からお金を集めているんですね。なので、金策の一部として固定料金を値上げするのかなーと想像しています。
例えば、平均して1店舗あたり月2万円値上げするとしましょう。楽天出店者が5万店舗いるとして「月2万×5万店舗」で、月当たり10億円の増収です。年間だと120億、2年間だと240億。まあそれでも、8000億のうちの240億ですけどね。
ここまでの話の流れを踏まえると「値上げの論拠としてAIを強調していた」のかも?
まあ、AI活用は大事ですから、値上げするならその分がんばってほしいですね!
(3)「配送品質向上制度」が(予定通り)7月スタート
配送品質向上制度は、私たちが「365配送」と呼んでいた新ルールで、「毎日出荷できる体制にしないと検索で不利になる」「毎日出荷すると好評価になり検索上有利になる」というものです。楽天は「検索順位に影響します」と明言しています。
「どういうものか」「楽天出店者がどう受け止めたらいいか」など、以前の記事に要点と我々の考えを書いています。よかったらご覧ください。
で、このルールが2024年7月に施行されます。既出の話ですが、影響が大きいので改めてご紹介しました。ちなみに、ラベルは「最強配送」という名前になりました(下図)。楽天モバイルの最強プランに引っ掛けたネーミングだそうです・・w
その他の情報(戦略共有会の発表内容)
次に戦略共有会の方針を紹介します。既出の話が多いですが、大事なポイントに絞ってお伝えします。
画像の容量と商品登録数の増加 new!
新しい情報として、「がんばれプラン」「スタンダードプラン」の画像の容量が増えます。
画像が少なくて困っていた方、多いですよね。ようやく画像の容量が増えるので、やりやすくなるんじゃないでしょうか。スタンダードプランは「5GB→100GB」、がんばれプランは「500MB→1. 5GB」と、大幅アップです。
プラン名 | 現在の容量 | アップグレード後の容量 |
---|---|---|
スタンダードプラン | 5GB | 100GB |
がんばれプラン | 500MB | 1.5GB |
もう1つは、登録商品数の増加です。スタンダードプランは「2万→5万点」に、がんばれプランは「5千→1万点」と大幅に増えます。
プラン名 | 登録可能商品数の上限 | アップグレード後の上限 |
---|---|---|
スタンダードプラン | 20,000商品 | 50,000商品 |
がんばれプラン | 5,000商品 | 10,000商品 |
定期購入の改善(2024年4Q)
こちらは既出の情報ですが、「定期購入がんばります」と言う発表がありました。
以前ご案内した通りなんですけど、大事なポイントとして、これまで定期購入が気づきにくい配置だったんですよね。Amazonだと結構、定期購入が目立ってるじゃないですか。多分あんな感じになると思います。
リピート商品を扱っている方にとってとても重要なので、今から楽しみにするといいかなと。私も楽しみです。
クーポンの改善(2024年3月~)
クーポンの有料化と進化の話がありました。これも以前ご案内の通りですが、改めて発表されました。
- 対象商品の指定数アップ(2024年3月)
- 「1クーポンあたりの対象商品数が「3000→5000商品まで」に増加
- ユーザーセグメント機能拡充(2024年6月)
- 購入履歴やユーザー属性を元にした、セグメントの設定が可能にある
- 公開設定の利便性向上(2024年6月)
- クーポン有効期間中、公開設定を変更可能になる
新規ユーザー獲得&ロイヤルカスタマー化の促進
去年の11月ぐらいから楽天市場全体の流通が落ちています。調子がいい人もいますけど、悪い人の方が多いですよねー。ポイント還元率の切り下げや、宣伝費の削減が影響してそう。
そこを気にしての発言かと思うのですが「ライトユーザー、新規ユーザー獲得を、本当にがんばります!」という発表がありました。具体的に何をするという発表はなかったんですけどw 危機感があるということは伝わりました。
ただ、年末の楽天スーパーセールのテレビCMは・・やってなかったですよね。楽天モバイルの影響で、販促費削減をしているんだと思います。3月のスーパーセールのテレビCMも削るんじゃないかなあ・・
なので、この「がんばります」は、これまでの販促コストを削りながらも、いかに集客していくか。新規ユーザーの掘り起こしや獲得をしていくか・・・という課題感なんでしょうね。ちょっと前のヤフーと似た状態になってきましたねーー。
楽天モバイル(法人)の無料提供 new!
これは小ネタです。楽天モバイルの法人回線が、店舗に無料提供されます(最大5回線まで)。
2024年1月末より順次配布するとのこと。
そういえば楽天のモバイルの回線数、去年の終わりに600万回線を超えたとのことで、ユーザが増えているという報道がありましたが。無料配布分も回線数に加算されるんですかね・・?
ちなみに、当社は出店者じゃないですけど、楽天モバイルを法人契約していて、便利に使っています。おすすめです!
今後の展望(坂本解説)
ここからは、楽天新春カンファレンス2024の発表内容を見て思ったこと、今後の展望についての、私の想像・妄想みたいな話です。
発表内容への感想
AIの話が前面に出てますが、背景には楽天モバイルの出費の重さがあって、なんとか販促費を削りつつ集客は落とさないよう頑張ります・・AIでサービスを高めるから値上げさせてください・・・・モバイルがちゃんと浸透すれば出店者の皆さんに還元されますから・・「がんばるから値上げさせてください!」という意味なのかなと。
まあ、楽天グループ全体として金策に困っている中で、楽天市場の出店料金についても、もっと早く値上げする選択肢もあったはずなのに、ここまで手を付けなかったわけですから、気軽に値上げしているわけではないんだろうなーー。想像ですけどね。個人的には、とても応援してます(私、元楽天社員なので)。
AIマッチングの進化で「多様性が活きるEC市場」へ
私個人的には、ECモールでのAI活用が進展して、「ニッチな商品」と「ニッチな需要」がマッチングされるような進化をしてほしいんですよねー。
インターネットの商品提案テクノロジーは「安い順・人気順に並べる」系と、「あなたにぴったりを提案する」系とがあるじゃないですか。私は、AIによって、後者が伸びて欲しい。
例えば、どういうものかというと、商品検索するときに「安い順」や「レビュー評価順」に並べ替え(ソート)できるじゃないですか。あのソートって数種類しかないんですよね。昔からある技術です。
それがAIを活用することによって、こんなことになったら楽しいなと。
- 「うちで飼っているチワワが、健康的に運動不足を解消できる、おもちゃ」の、おすすめ順
- 「親戚の子供をたくさん招くホームパーティーで盛り上がる、ボードゲーム」の、おすすめ順
状況や目的をわーっと書くと、おすすめ順で提案してくれる感じ。
安さ・早さ・評判っていう比較軸はパワーゲームになりやすいんだけど、ではなく、「お客さんそれぞれの生活上の文脈を踏まえてレコメンドができる」と、ユーザは使いやすい上に、事業者のパワーゲームが減るのではないかなと。
余談ですが、昔「お客さんとお店が赤い糸で結ばれる時代が来る」というお花畑な記事を書いたことがありますw 不自然な「集客」ではなく、ちゃんとやってれば「相性がいい人と出会えるような引力が発生する」方向へとテクノロジーは進化すると思うのです。
※とはいえ、JANコードでカートが統合されると、難しくなる側面はあるんですけど…(カート統合されたら、独自のJANを発行して別注の商品を作るとか、セット商品化するとか、色々打ち手を考えなきゃいけなくなります)。
AI時代、EC事業者は何を頑張ればいいのか?
確かに、AIで仕事はちょっとラクになります。
でも皆がAIでラクになったら、何で差がつくのかな?と考えねばなりません。
現代の棋士は、AIを使って将棋を研究しています。うろ覚えの話ですが、たしか羽生善治名人いわく、昔と比べて、AIの力で、みんな結構いいところまで伸びる。上の下ぐらいまでは行くけど、その辺で大勢がいるから、渋滞する。つまり競争が激しいゾーンが上に上がっただけで、将棋の勝ち負けは相対的なものだから、そこで留まって勝ち抜けない、ということが起こると。
AIを使うということはそういうことで、「みんながAIで底上げされたらどうなるか」というと、一歩先に出るためには、やはり知恵を使わなきゃいけない。
で、今回の発表でも「AIにJAN コードを渡すと、商品説明文を自動生成してくれる」なんて話がありましたが・・それっていわゆる「同質化」で、みんな同じような商品説明文になったら差がつかないわけです。
でも例えば、スイーツを販売するときに、スイーツのスペックを書くだけでなく、利用シーンを幅広く描写するほうが売れると思うんです。「デザート」とか「おやつ」とか「子供会で配る」みたいな。それが書いてあれば、 AI は、セマンティック検索などで拾ってくれるはずです。(普通のキーワードとしてもヒットしますね)
- このお菓子は、子供会で、たくさん子供に来るときに配りやすいです
- このお菓子は、小麦粉と〇〇が入ってないので、◯◯アレルギーや◯◯体質の方にも人気です
そのためには「AIに生成してもらって商品説明文を書けた!これで頭使わなくていいや」ではないですよね。「マイクロな説明・用途・エピソード」を、たくさん書いて、「AIに知らせる」必要があるんじゃないかなと。
ただ、AIを活用せずに手動だけでやるのは無理です。 AI をベースに説明文を書きながら、人間が知恵を働かせて、文章や情報を追加していくプラスアルファが必要。そうすると、きっと AI はマッチングを働かせてくれると思います。「人間の知恵はAIに勝る」とかではなく、「AIを使う知恵」ですね。我々のセミナーでも紹介していますが、さらに研究して発信していきます。
とはいえ、EC事業全体のバランスを大切に
この何年かみんな感じていると思いますけど、コロナというファクターはあったものの、基本どこかのモールが下がると、どこかのモールが上がったりしますよね。
となるとやはり、いつもの話です。本店含め、複数店のEC運営が当たり前になっていますから、「特定モールに依存せずバランスよく商売する」「複数モールを効率よく運営する」のが大事かなと。
それはAI活用においても同様です。楽天がAI環境を整備してくれるからといって「楽天以外でのEC運営ではAIを使えない」というのはマズいわけです。全店舗や会社の運営にAIを活用する。楽天においては、楽天が作り込んでくれたAIを活用する。ほどよい距離感をとって、特定のモールだけに依存しないよう、分散しながら商売するのが大事かなと思います。
楽天のトレンドを追うのも、もちろん重要です。「楽天市場が一番の売上の源泉だ」という方も多いですしね。でも、本当の突破口になるのは、モール特化の知識や技術ではなく、「どのモールも本店も含めて売れるような、商品開発とか仕入ルートとか組織とか戦略」だったりします。モールに特化した情報や裏技っぽいテクニックは賞味期限が短い。
EC事業が本当に伸びるときは、商品というかお店のポジショニングが定まって、正しくリソース配分されて、ナイスな商品を開発したり、それをうまくお客さんに伝えられたりしたときです。あるいはそういったリソースを捻出できるような体制変革や人材との出会いや成長だと、日々実感しています。
お客さんをよく観察し、AIなど時代の流れを見極めて、事業全体のバランスを取っていきましょう。
みなさんが本当に大切なことに集中できるよう、私達は今後も、わかりやすい情報発信をがんばります。
なお、2024/2/14(水)に「楽天新春カンファレンス2024」の解説セミナーを開催します(参加無料)。
「忙しくてまだちゃんと見れてないんだよね」という方、ポイントを絞って分かりやすくお伝えするので、ぜひご参加ください。
P.S.
「AI活用を含め、今後のEC運営について考えたい」「EC事業全体でバランスよい運営をしたい」という方は、弊社がお手伝いできるかもしれません。
コマースデザインでは、EC事業者向けのChatGPTセミナーや、コンサル会員向けの「AI研究会」などを開催しており、AI時代のEC業務における知見が豊富にあります。また、ECのチーム化・効率化についても、よくご相談にのっています。ご興味ある方は、以下のページをご覧ください。
カテゴリー: EC業界ニュース