こんにちは、坂本です。
突然ですが、皆さんは宇田川元一氏の『企業変革のジレンマ』という本をご存知でしょうか?2024年に発売されるやいなや、各方面から高い評価を集めた企業論・組織論の話題書です。
この本には「組織は仕事のルーティン化や分業化により、構造的に無能化していく(意訳)」など、ネットショップの経営・運営課題にも当てはまる核心的な指摘がたくさん書かれていまして。わたくし、見事に触発されました。
そこで今回は、触発された勢いそのままに、思い浮かんだ仮説について綴ってみたいと思います。仮説のテーマは「組織の老朽化」。これがどういったもので、なぜ起こり、どう対処すればいいのか、解釈をもとにお話しします。
自社の組織に課題を感じている方の参考になれば幸いです。
- 目次 -
組織の老朽化はなぜ起こるのか?
まずは「組織の老朽化」の意味や、メカニズムについて整理します。
馴染みのない言葉だと思いますが、どんなに優れた組織でも起こり得る、事業の成長を妨げる困った現象なんです。以下、詳しく説明します。
組織の老朽化とは
組織の老朽化とは「お客さんのニーズ変化に順応した変革・成長ができなくなる現象」のことです。
企業・組織が成長するためには、お客さんのニーズに応えることが必要ですよね。そのため、変わり続けるニーズにあわせて、組織は業務内容やプロセスを見直し、変革し続けなければなりません。
しかし、いつの間にか「仕事のための仕事」「慣性だけで続く仕事」といった内向きの仕事が増え、お客さんのニーズ変化に対応するリソースが不足しがちになります。その結果、顧客離れが進み、慢性的な利益低下や事業成長の鈍化状態に陥ってしまうのです。
例えば、以下のようなケースが老朽化の典型例です。
- 効率を高めるために仕事をルーティン化。運用は安定するが、改善や変化を嫌うようになり、意義がわからない謎の仕事やルールが増えていく
- 分業が徹底され、仕事の断片化(縦割り化)が進む。部門や担当ごとに表面的な数字を追うが、中長期的な目線や、他部署への関心は相対的に薄れていく
ネットショップに関わらず、心当たりがある方もいるのではないでしょうか。
組織が老朽化するメカニズム
組織が老朽化する原因は、時間が経つにつれて、組織が「顧客」ではなく「社内」に目を向けてしまうことにあります。
成長する組織は、お客さんの最新のニーズに応えるため、お客さんにとってムダのない状態を保っています。お客さんのために価値あるサービスやプロセスを作るなど、効率的に機能する”贅肉がない状態”です。
しかし、時間の経過とともに組織のプロセスが固定化されると、次第にお客さんの方ではなく、社内の方を向いて仕事をするようになります。例えば、分業化やルーティン化により部分的な効率化が進められるイメージです。
もちろん、分業やルーティン化は効率上はとても良いことです。組織の構造上、必要なことでもあります。ただ一方で、これらにはメンバー個々の視野や仕事の幅が狭くなる副作用があり、この副作用がメリットを上回ることで、”贅肉がついた”かのように動きが鈍くなって、成長が止まる。つまり老朽化に陥ってしまうのです。
ネットショップが老朽化するとムダ業務が増加しやすい説
さて、ここから本題に入ります。
ネットショップのようなタスクが多い事業では「組織の老朽化によるムダ業務の増加が起きやすいのではないか」という仮説の話です。
物理学の世界に「エントロピー増大の法則」というものがあります。要するに「放っておくほど、散らかったものは散らかり続け、元には戻らない」という意味です。
例えば、コーヒーにクリープを入れると溶けて広がり、自然には元の状態には戻りませんよね。こんな風に、散らかって広がるエネルギーは、片付けるよりも強くて速いという摂理があるんです。
この法則は、仕事の現場にもあてはまるんですね。実際にネットショップの現場でも、以下のようなケースをよく見かけます。
- 顧客のニーズがないとわかっている商品でも「制作ルールだから」と時間をかけてページを作り込む
- 効果が薄れた古い施策を「決まった作業だから」と惰性で続ける
今のお客さんのニーズとは関係なく、業務プロセスだけが広がっている状態。そう、まさしく老朽化ですよね。
繰り返しになりますが、ネットショップのようなタスクが多い事業では、この老朽化によって、仕事がどんどん膨れていく問題が起こりやすいように思うんです。
皆さんは、上記のような状態になったらどうしますか?「断捨離したい」と思いませんか?(私はそう思います)
企業変革のジレンマでは、対話を通じて変革に取り組む方法が提言されていますが、私はそれに加えて「不要な業務を断捨離すること」も、同じくらい重要ではないかと考えています。
組織の老朽化を防ぐ「仕事の断捨離」3つのポイント
ということで、ここからは「断捨離による組織の老朽化対策」として、ネットショップが断捨離する際の主なポイントを3つ紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
ポイント1. 先にお客さんのことをよく理解する
まず1つ目が、断捨離する前に、お客さんのことをよく理解しておくことです。
老朽化のメカニズムとして「お客さんの方ではなく、社内の方を向いて仕事をするようになる」という話をしました。これと同じで、断捨離もお客さんの方を向いて行わなければなりません。社内のためだけに断捨離したら、それこそ老朽化したままです。
では、どうお客さんのことを理解すればいいのか。その答えは「ダレナゼ」の視点を持つことです。
- 誰が:どのようなお客さんが自分のお店や商品を利用しているのか
- なぜ:そのお客さんは何を求めて利用しているのか
このダレナゼの視点を持っておくと、お客さんの姿やニーズが明確になります。これを基準にすることで、本当に必要な仕事とそうでないものとを区別できるはずです。
ダレナゼについては、以下で詳しく解説しています。ぜひ、あわせてご覧ください。
ポイント2. 今のお客さんの価値につながるかで判断する
2つ目は、今のお客さんの価値につながるかどうかで判断することです。
断捨離と聞くと、こんまりさんの「ときめき」のように、直感的に判断していくイメージがあるかもしれません。ただ、組織のありようを見直すような断捨離においては、個人の直感ではなく、お客さんのニーズにあわせた判断が必要なんです。
具体的には、スプレッドシートやドキュメントに手元の仕事を書き出し、ひとつずつ「今のお客さんにとって価値があるか」を基準に、捨てるか残すかを判断していきます。
例えば、今のお客さんが求めていない商品とわかっているなら、時間をかけてページを作り込むことをやめる。今はもう効果がない施策だとわかっているなら、決まった作業であろうとやめるイメージです。(もちろん、価値のほかにも「定型的な繰り返しか」「特定の人しかできない仕事か」といった組織運営上の基準も定義して検討してくださいね)
また派生して、お客さんに迷惑をかけてしまっていたり、お客さんが求めているのに不足していたりする仕事も、一緒に見直せると良いと思います。
例えば、行き過ぎた商品レビュー依頼なんかはよく見かけますよね。お店としては決まったルーティンで依頼しているだけかもしれませんが、それで「レビュー依頼がしつこい」とレビューに書かれるようなことがあれば本末転倒です。
ともかく、今のお客さんの反応、今のお客さんにとっての価値を外さないように断捨離すること。この点はしっかり押さえて進めましょう。
ポイント3. 誰か一人の意見に偏った視点で進めない
最後、3つ目のポイントとして挙げたいのが、誰か一人の意見に偏った視点で進めないことです。(これは宇田川さんの別著『他者と働く』でも、同じことが書かれていました)
同じ組織に属する社員・スタッフでも、それぞれの役割や担当に応じて、考え方や優先順位は変わります。例えば、セールイベントに対するスタンスで考えてみるとわかりやすいですね。販促担当はいかにお客さんに商品を購入いただくかを優先するのに対し、バックヤード担当は出荷遅延を起こさないためにオペレーション制御を優先する…というように、立場によって判断基準は大きくブレるものです。
そのため、断捨離の判断が誰か一人に偏ると、知らず知らずのうちに、その人の利益が優先されてしまうので注意しましょう。
これは経営者や管理職であっても同様です。自然と「経営・管理側としての視点」で物事を捉えてしまうので、現場のスタッフから見て偏りが生じてしまうのはよくある話です。
老朽化を脱し、お客さんの方を向いた組織に立ち戻るためにも、複数の社員やスタッフの視点を取り入れつつ仕事の断捨離を進めていきましょう。
組織の老朽化は必然。だからこそ見直そう!
今回は「組織の老朽化」をテーマに、構造的な原因と対応策としての断捨離について仮説をお伝えしました。
数年で破産や事業売却する企業が多い中で、10年〜20年とビジネスを続けることはとても素晴らしいことです。ただ、時間が経てば、どうしたって組織は老朽化はしてしまいます。
今後、さらにビジネスを続けていくためにも、これまでやってきた仕事を見直し、組織も共に変革していく機会を意識的に作ってみてはいかがでしょうか。
改めて、今の仕事を見直してみてください。
- お客さんのための仕事ができていますか?
- 慣性や惰性で、効果もわからずに続けているルールや仕事が残っていませんか?
エントロピー増大の法則が示すように、仕事は放置すると構造的にどんどん増えていきます。組織の成長鈍化や、ニーズとのズレを感じている方は、ぜひ一度「今の仕事がお客さんの価値提供に繋がっているか?」を基準に、組織の断捨離をしてみてください。
この記事が少しでも参考になれば幸いです。
P.S)ネットショップの組織改革で悩んだら、ご相談ください
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今の組織や仕事がお客さんへの価値提供に繋がっているか、コンサルタントが客観的な視点で確認し、断捨離をサポートいたします。
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カテゴリー: EC事業の組織論