こんにちは。コンサルタントの味藤です。
9/28~9/29に開催された「楽天オプティミズム2022」に参加してきました。
今年のテーマは、「Tech&Green 未来、動く、ここから」。
「より一層のデジタル化と、持続可能なグリーンな社会を目指す」ということで、各領域の有識者によるトークが繰り広げられました。日本語&英語で無料配信され、登録者数は11万人を超えていたとか。
内容としては、楽天がグループ全体でどんな方向性を目指すのか、また、テクノロジーやSDGs・フィンテックなどの世の中の最新動向がわかるイベントでした。あまりECに関わる話はありませんでしたが、今後の戦略や運営方針を考える上で、社会動向は押さえておきたい所。そこで、有用そうな情報をピックアップしてお届けします!
はじめに
楽天オプティミズムとは?
ご存じない方向けに説明すると、楽天オプティミズムは、2019年に始まった楽天グループが開催する大型イベントです。
Eコマースに限らず、モバイル、フィンテック、マーケティング、サステナビリティ、テクノロジーなど、多岐にわたるテーマについて、各領域のプロフェッショナルをゲストに迎え、講演や対談が開催されます。
また、楽天は国内だけでも70以上のサービスがあり、普段利用していないサービスや取り組みを広く知ってもらう機会として、このイベントを位置付けているようです。
一般参加OKな無料イベントで、当初はリアル開催でしたが、2020年はコロナで中止に。2021年からオンライン開催になり、2022年もオンラインで開催されました。ちなみにリアル開催の時の様子はこちら▼
「今の時代状況と未来」が分かるイベント
こんにちは、坂本です。本編に入る前に少し解説させてください。
楽天オプティミズムの内容は、我々eコマース物販の事業者にとって、短期的には直接関係ないものが多いです。
ただ、世の中の多くの分野をカバーしている楽天グループが、「今の時代状況とこれからの未来」についてどう考えているか、全体の概要が分かるイベントです。なので、この記事を読むと、(三木谷さんのフィルターがかかってはいますが)「今はこういう状況なんだ」ということがわかると思います。
時代は揺らぎながら繰り返されるもの
現代の状況や未来の話から、時代感覚について思うことがありました。
今と昔を対比してとらえる場合、つい「自分の子供時代と現在」を比較し、単純化した見方をしがちです。でも、今起こっているムーブメントは、平成に対しての反動であって、自分が子供の頃の出来事への反動ではないんですね。
例えば僕にとって(※今46歳です)、平成はつい最近のイメージなので、昭和と現在を対比しがちです。しかし、「昭和は、比較対象として昔すぎる」と言えます。「現代人にとっての昔」は平成であり、平成へのアンチテーゼで色々なムーブメントが発生していると見るのが妥当でしょう。ちなみにその意味では、昭和は2つ前なので「逆に新しい」と言えます。
「エモい」という言葉がありますね。
なにもかもエモかった時代は、「エモい」という言葉は必要ありませんでした。時代がエモくなくなってきたから、エモーション(感情・情緒)の希少性を表現し、価値を重んじていることを表明するために、「エモい」という言葉が現れたと言えます。
このように時代というものは、少し前の過去への揺り戻しとして、作用していきます。
商売人として必要な「時代感覚」を持とう
昔、三木谷さんがこんなことを言いました。
「概念は相対化し、揺らぎながら進化する」
時代もあっちこっちに揺らぎながら、前進していくものだと思います。
現在の少し前の平成、平成の少し前の時代、その前の時代…というように、「揺らぎながら反動が繰り返されて、時代が進んでいる」ととらえた方が、「商売人として持つべき時代感覚」がまともになる気がします。私は今回、そのようなことを考えるいい機会になりました。
それでは、楽天オプティミズムの内容について、ざっとご覧ください。
前回はモバイル一色でしたが、今回はSDGsやトラベル、テクノロジーなど、よりテーマが幅広くなっている印象でした。「何か特定のテーマを掘り下げて見る」より、現状把握の参考に流し読みするくらいがいいと思います。
三木谷さん講演
イベント冒頭を飾ったのは、三木谷さんのオープニングスピーチ。
色々なメディアで取り上げられてるので、すでに内容をご存じの方も多いかと思います。
2023年までに、楽天グループ全体でカーボンニュートラルを達成
「楽天グループ全体で、2023年までにカーボンニュートラルを達成する」ということが、ニュースになっていましたね。
日本のエネルギー基本計画では、「2050年までにカーボンニュートラル実現」を目標としていますから、国の目標に対し、楽天グループとしては27年前倒しで達成というスピード感です。本気で環境問題に取り組んでいることが伺えます。
クラウド分野に参入。ユーザも巻き込み、サステナブルを推進する
三木谷さんの講演については、すでに色々と紹介されていますから、ざっくり要点だけ紹介します。
- 5GやOpenRANにより、インターネット革命が起きる
- 100以上のサービスからなる「楽天エコシステム」。ひとつのIDで一気通貫につながれる強み
- 今後は、楽天外の企業にもオープンにしていくことで、さらなるエコシステムの拡大を目指す
- EC事業などで培った技術を生かし、今後「クラウド分野」に参入していく
- ユーザーも巻き込んだ、サステナブル推進を進めていく
「ユーザを巻き込んだサステナブル推進」について、早速、10/3から楽天市場での取り組みがスタートしました。環境に配慮した商品を購入すると、楽天ポイントやクーポンがもらえるキャンペーンが始まっています。
三木谷さん講演の詳しい内容は、こちらをご覧ください。楽天公式ブログで詳細が公開されています。
テーマ別の主な講演内容
ここからは、各テーマの講演から、いくつかピックアップして要点をお届けします。
楽天は、日本国内だけでも70以上のサービスがありますから、幅広いテーマとなっています。
Eコマース
コマースについては、リアル回帰に向かっているためか、観光やトラベルの話が中心で、楽天市場やECについては目立ったトピックはありませんでした。
講演テーマ |
- 世界一訪れたい国、日本の作り方
- Z世代の旅行の考え方
- DX化、SDGs推進…なぜ多くの企業が声掛けだけで終わるのか?
トラベルのカギは「訪日インバウンド」と「Z世代の需要掘り起こし」
コロナ後の観光復興のカギは、「訪日インバウンド」と「Z世代の需要掘り起こし」。
訪日インバウンド |
- 海外からの旅行者のニーズにあった商材を、早急に準備すべき
- 和食や日本文化推し、1泊1~2万円の宿泊プランばかりだが、ニーズと合っていない
Z世代の需要掘り起こし |
- Z世代は「手触りある体験」を支持する傾向
- 昔ながらの文化体験に若いクリエイターが参画することで、新しい価値が生まれ、リバイバルする動きがトレンド
- 例:そば打ち、茶会
- 社会課題解決型の旅行の提案
パワーワードに振り回されないこと
- DXは目的ではなく、あくまで儲けるための手段
- 文脈に位置付けて考えること。戦略はストーリー
- ストーリー全体を理解し、飛び道具トラップに飛びつかない
- 商売に一番役立つのは、論理。そして、ビジネスの勝利条件は「長期利益」
- シンプルに長期的に儲けることを考えよう
グリーン
楽天EXPO2022で、三木谷さんが「義務でもあるし、マーケティングでもある」と語った、サステナビリティについて。
どの有識者も認識を同じくしており、日本は世界から遅れをとっていますが、サステナビリティは待ったなしです。
講演テーマ |
- 気候変動に企業がどう向き合うか?
- エネルギーを軸にした課題と今後の展望
脱炭素は、これからのビジネスに必須
- 気候変動による災害で、世界的にビジネスが続行できない状態になっている
- サステナビリティ・脱炭素の対応は必須。
- 世界と危機感を共有し協働しなければ、日本は世界の経済活動から干される
- 日本政府は遅れがちなので、企業レベルでは世界と一緒に動いていく必要がある
環境産業の現状と、事業が取り組むべきこと
環境産業はここから伸びしろ。世界的に「再生可能エネルギーの導入コスト」が下がっており、取り組みやすくなっている。
- 日本の現状
- エネルギー消費の9割を「海外からの化石燃料の輸入」に依存している。これは大きなリスク
- 100%クリーンなエネルギーになっていれば、今回のウクライナ危機によるエネルギー問題の影響はなかった
- エネルギーの自給問題。継続的なエネルギーシステムをどう作って育てていくか、考える必要がある
- 日本のエネルギー計画
- 2030年まで:温室効果ガスを「46%」削減(2013年度比)
- 2050年まで:カーボンニュートラルを実現
- 脱炭素分野の現状
- お金が集まっている。2021年の「脱炭素へのベンチャー投資額」は、世界で一番大きい。
- ベンチャー投資全体の「20%」を、脱炭素企業が占めている
- 今、流行っているWEB3ですら、「脱炭素の1/4~1/5」くらい
- 脱炭素は今後2040年、2050年と、確実にトレンドが続く。各国のロードマップも明確なので、取り組みやすい
- お金が集まっている。2021年の「脱炭素へのベンチャー投資額」は、世界で一番大きい。
- 事業者として取り組むべきこと
- そのうち「やってあたり前」になるので、いちはやく取り組むべき
- 会社として脱炭素にコミットメントすると、顧客との関係・ファイナンス・採用においてもプラスになる
- 環境に対する意識が高く、「脱炭素したい」「地球にいいことをしたい」という若い世代は多い
- 人口減少や高齢化で悩む地域も多い。でも、そういう地域ほど、再エネ資源は豊富
テクノロジー
前提として、楽天は楽天シンフォニーを通して、通信会社にクラウドサービスを提供しています。2020年4月に、世界初の完全仮想化モバイルネットワークを立ち上げ、グローバルに事業展開しています。
オプティミズムでは、楽天の通信サービスの今後の展望とサービス内容について、詳しい紹介がありました。
講演テーマ |
- 目前に迫る!未来のグローバル通信
- 欧州視点で語るモバイルネットワークの未来像
open RANによるクラウドネットワークの進化
open RANにより、低コストでよりセキュアなネットワークサービスを享受できるようになる。
消費者にとっては生活向上になるし、企業としては新サービスを提供できるようになる。その価値は計り知れない。
このためには、5Gの新しい周波数帯の導入に、インフラがついていかないといけない。
具体例 |
- 外出先から、医師と遠隔診療でつながれる
- 交通ネットワークが、安全かつ効率的に最適化される
- 農業において、農地の遠隔監視ができる など
セキュリティ |
- Open RANでよりセキュアにはなるが、セキュリティが100点になるわけではない
- 事業者は、安全性を高めるための取り組みをしなければならない
※「そもそもopen RANってなに?」という方は、こちらの記事をどうぞ。
マーケティング
政府はどのようにDX推進を行っていくか。また、それに応じて民間企業は何をしていけばいいかについて。
講演テーマ |
- みんなのDX ~デジタル変革はどう進む?政治と考える、社会の目指すべき姿~
政府にとってのDX推進
- 日本が成長してる感じがしない。なぜか?
- この国の社会制度・インフラが、時代に合わなくなってきているから
- 土台となるインフラ、法律や制度・慣習が、新しい取り組みを邪魔している。
- 政治のやることとして、ここを書き換える必要ががる
企業はDX推進にどう取り組めばいい?
- 国のルールが変わるのは、ビジネスチャンス
- 自社のルールを見直し、導入後はサービスとして他社に提供もできる
- DXを進めることで、人手不足の解消につながる。また、魅力ある職場にもなる
- 政府の検討会議の資料をチェックすると、3年後の未来がわかる
- 日本は「観光したい国」で世界1位
- 1億人を超える観光客が、これから海外から日本にくるようになる
- 日本に興味を持った人が、母国に帰ってからも買える商品を作ると◎
観光地としてどれだけ魅力的か、各国の競争力を比較した世界的な調査結果が発表され、日本は交通インフラの利便性や自然や文化の豊かさなどが評価され、調査の開始以来、初めて世界1位になりました。この調査は、スイスのダボス会議の主催団体として知られる「世界経済フォーラム」が、2年に…
フィンテック
経済産業省は、「2030年ゼロキャッシュ」を目指しており、楽天もそれに従いキャッシュレス化を進めています。
今後、更にキャッシュレス普及の勢いが増すはず。
講演テーマ |
- 楽天が目指す、サステナブルなゼロキャッシュ社会
- 世界中で誰からも受け入れられる決済を目指して:人々をつなぐ持続可能な社会実現における決済の役割
キャッシュレス化の成功事例が増えている
コロナで「デジタルは便利」ということに人々が気づき、「キャッシュレス」が当たり前になってきた。
ここ数年で急激に加速し、日本のキャッシュレス比率は「33%」。
- 事例1:スタジアムの完全キャッシュレス化
- 経費カット効果も高く、ゼロキャッシュが成功している
- 運営側&ユーザー双方にスムーズに浸透しており、メリットが大きい。小売店・飲食店でも増えていくはず
- 例:楽天球場、ノエビアスタジアム神戸、東京ドームなど
- 事例2:Visaのキャッシュレス化
- コロナ禍でVisaは政府の協力を仰ぎ、あらゆる支払をキャッシュレス化(税金などの公的な支払など)
- 事例3:西友のビックデータ活用
- 物理的なカードから、デジタルなアプリへシフト
- 楽天ID&楽天ポイントを、マーケティングに活用
- 楽天のビッグデータを得て、商圏内の新規顧客の獲得がうまく回っている
モバイル
楽天モバイルについて、WEB3におけるデジタル資産の普及についてのトークがありました。
講演テーマ |
- No.1 キャリアに向けての現在と今後の取り組み
- Web3がもたらすビジネスと社会の変化
楽天モバイルは、人口カバー率「100%」を目指す
楽天モバイル社長による、楽天モバイルの現状とこれからの展望について。
現在の楽天モバイルの人口カバー率は、「97.8%」。
衛星通信ネットワークにより日本全土をカバーし、「100%」を目指すそう(9月に試験衛星の打ち上げに成功)。
これで、山岳地帯や無人島でもスマホを利用できるようになり、災害時にも活用できます。「BCPの一環で楽天モバイルを導入する」という選択肢もでてきますね。
Web3がもたらすビジネスと社会の変化
WEB3を迎え、新しいタイプの取引がデジタルで始まった。
当初は「リスクが大きく、メリットがないのでは」と否定的だった。だが、NFT(※)が出てきたことで、デジタル資産の普及に期待できるようになってきた。
※NFTとは、「偽造不可な鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータ」のこと。
- 例:デジタルレコードオーナーシップ
- 歌や画像などのデジタル資産を持てる。オーナーであることを可視化できる。
- デジタルは複製されやすいが、NFTがあれば権利があることを示せる。
- 例:イベントチケット(QRコード)
- 実態のないユニークなデジタル資産も、所有権を移行できる。
普及の課題 |
ただし、まだ活用は少ない。以下のような取り組みが必要となる。
- 1.アクセスポイントを増やす
- 消費者と商品の接点がまだまだ少ない。
- 2.保護・セキュリティの整備が必要
- 即座に取引される必要あり。永久的な所有権であることを証明する必要あり。
- 現状は、正しく取引されたのかの確認が難しい。きちんとした保護やセキュリティ構築が必要。
エンタメ
講演テーマ |
- ファンを中心としたエンタメとBTSの成功 〜HYBE アメリカ CEOとの対談〜
商品自体だけでなく、開発プロセスもコンテンツになる
三木谷さんと、BTSが所属するエンタメ企業「HYBE」のCEOの対談がありました。
「BTSゲーム」の事例は、ECの商品開発&コンテンツマーケでも参考になるかもしれません。
ユニークなコンテンツ事例「BTSゲーム」 |
- BTSメンバーが、キャラクターとして登場するだけでなく、ゲーム開発にも関わっている
- 開発プロセスも動画公開。ゲームそのものだけでなく、開発プロセスもコンテンツになる
まとめ
以上、楽天オプティミズム2022の内容をご紹介しました。
各セッションの合間には、米倉涼子さん、楽天イーグルスのマー君、ヴィッセル神戸のイニエスタ選手など、著名人の「25周年おめでとうメッセージ」が流れ、お祝いムードを盛り上げていました。
なお、楽天オプティミズムのアーカイブ動画は無料公開されており、こちらから視聴可能です(要:楽天IDでのログイン)。
全動画が公開されているので、気になる方は見てみてください。
P.S.
このように、EC業界の最新動向やイベントの中から、「ネットショップ運営者が知っておくべきこと」について分かりやすく解説し、情報発信しています。
ブログでは一般的な話までですが、コンサルティングにおいては、「自分の店が、具体的にどう対応すればいいか」「こういう状況なんだけど、何をしたらよいのか」など、担当コンサルタントがじっくりご相談にのります。
それぞれのお店ごとに、ネットショップの運営状況や目指す方向性、抱えている課題は、異なります。ですので、当社のコンサルティングでは、金太郎飴のような型にはまった提案ではなく、それぞれのお店や担当者に寄り添った、オーダーメイドの提案を大切にしています。
当社がどんな支援をしているか、ご興味をお持ちいただいたら、こちらをご覧ください。
この記事を書いた人
- 有名EC企業にて、店舗の立ち上げから店長まで一連の運営業務を経験し、実績を重ねる。その後、食品メーカーに転職、衰退した人気店の建て直しに尽力。2年間でアクセス数4倍、転換率2倍とし、再成長させる。メーカー型、仕入れ型、大規模、小規模共に経験している守備範囲の広さが強み。ネットショッピングが大好きで、女性ならではの柔らかい物腰の中に、鋭いお客目線が光る。